家族の再生を願い、少年は闘う
ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)  1年前、ジョニーの家庭は崩壊し始めた。12才だった双子の妹アリッサが学校帰りに誘拐され、いまだ生死すらわからぬままだ。それから間もなく、ジョニーの父親も忽然と姿を消した。母キャサリンは薬物に溺れ、家事はもとより息子のことも顧みなくなってしまった。魂の抜けがらと化した母を気づかいつつ、ジョニーは手がかりを求めて、親友ジャックとともに、近所の性犯罪者の動向を探る。

 アリッサ誘拐から1年。またひとり、少女が姿を消した。そして、ジョニーの前で事故が起き、被害者の男が「あの子を見つけた」とつぶやいて息絶える。「あの子」はアリッサのことだと確信したジョニーは、身を賭して妹を助けようとする。

 13才。荒れ狂う思春期。自分で自分を持てあます疾風怒濤のただなかで、父を案じ、母を気づかい、安否の知れない妹を、大人の力を借りず、自力で探し出そうとするジョニー。13才の子が知ってはいけない世界に足を踏み込みながらも家族の再生を願って闘い続ける姿に、引きつけられた。

 そんなジョニーを案じて見守る男がいた。アリッサ誘拐事件の担当刑事、ハントである。事件にのめり込んだハントは妻に去られ、高校生の息子とも心通わぬようになっていた。ハントの家庭もまた、崩壊しつつあった。細い糸がつながったかと思うと、ささいなことがきっかけでぷつんと切れる、その繰り返しが続く。

 ひとりひとりの心の痛みが細やかに描かれるなか、事態は思いがけない展開を見せる。アリッサはどこに? 家族は再生するのか? そして、タイトルの『ラスト・チャイルド』が意味するものは?

『キングの死』、『川は静かに流れ』に続くジョン・ハートの作品である。先に読んだ『川は静かに流れ』はかなりよくできていた。それならばと先に出た『キングの死』を読んでみたが、主人公のじくじくしたところにいら立ちを覚えた。今度はどうだろうと、期待と不安を交えながら本作を読み始めた。ジョニーの無鉄砲さとキャサリンの無気力さに引いたが、物語が動き始めると、一気に読んだ。滔々たる流れに身を任す快感を覚えながら読み終えたとき、痛ましさはぬぐいきれないものの温かく確かな思いに包まれた。

 早川書房創立65周年とハヤカワ文庫40周年記念作品だけあって気合いが入っているらしく、ポケミスとハヤカワ文庫上下巻の2本立てで出版されている。わたしはポケミスで読んだが、文庫でも中身は同じとのこと。お好みでお選びいただきたい。

『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート 東野さやか訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ&ハヤカワミステリ文庫

(2010年5月)