クリスマスにオルコットを偲ぶ
『ルイザと女相続人の謎』アンナ・マクリーン

ルイザと女相続人の謎―名探偵オルコット〈1〉 (創元推理文庫)  クリスマスというと、思い浮かぶのはルイザ・メイ・オルコットの『若草物語』である。家庭のぬくもりと少女たちの成長を描いたこの物語は、多くの人に愛され、読み継がれてきた。今回ご紹介する『ルイザと女相続人の謎』は、『若草物語』が世に出る前の若きルイザが探偵となって活躍する名探偵オルコット・シリーズの第1作である。

 1854年、ボストン。22歳のルイザと親友シルヴィアは、新婚旅行から帰ったばかりの幼なじみドッティからお茶の招待を受け、新居を訪ねた。だが、約束の時間になってもドッティは姿を見せない。1時間も遅れてようやく帰宅したドッティは、約束は明日だと言い張る。いとまを告げたルイザにドッティは「話したいことがあるから、明日、また来てね、少し早めに」と念を押す。
 翌日、再び屋敷を訪れたルイザとシルヴィアは、恐ろしい知らせを聞く。ドッティが溺死体となって発見されたというのだ! 当初は事故と思われていたが、検死解剖の結果、ドッティの死は他殺と判明する。ドッティの死の真相を突きとめるため、ルイザは調査を始める。

 ガス灯の淡い光のもと、玉石を敷き詰めた道路を乗合馬車が走る19世紀中ごろのボストンの雰囲気が伝わってくる。オルコット一家が支援していた幸薄い女性たちのための救済施設や逃亡奴隷のための地下鉄道にも言及されており、時代のありようと一家の気概が伝わり、婦人参政権運動等に参加していたルイザの姿がしのばれる。

 賢く優しい母アビゲイルことアッバや哲学者で理想家肌の父ブロンソン、家庭的で働き者の妹におませな末妹と、『若草物語』ファンには感涙ものの設定である。ファンには、オルコットとミステリは一見ミスマッチに思われるかもしれない。だが、彼女が自身で「血と雷」(ブラッド・アンド・サンダー)スリラーと呼ぶ小説を書いていた――生活のためだけではなく、楽しんで書いていた様子がうかがえる――のは、あまり知られていないようだ。

 邦訳が出ている『愛の果ての物語』は、孤島で気難しい祖父と暮らす美少女が危険な匂いのする男と駆け落ちしたのち、ヨーロッパの保養地や修道院を転々とする物語である。荒唐無稽といってもよいゴシックロマンスではあるが、娯楽性に富むと同時に、強い意志を持ったひとりの女性の姿が浮かび上がってくる。ほかにも、ペンネームを使ったサスペンスが数作、Project Gutenberg (著作権の切れた作品が無料で読めるサイト)に収録されている。そんなジャンルも好んだルイザだから、自分が探偵役を務める物語ができたと聞くと、天国でジグを踊っているのではないだろうか。

 本シリーズは2005年に第2作 "LOUISA AND THE COUNTRY BACHELOR"、2006年に3作目 "LOUISA AND THE CRYSTAL GAZER" が出版されている。引き続き、翻訳出版されることを望んでやまない。

『ルイザと女相続人の謎』アンナ・マクリーン 藤村裕美訳 創元推理文庫
『愛の果ての物語』ルイザ・メイ・オルコット 広津倫子訳 徳間書店

(2008年12月)