不朽の名作との新たな出会いを楽しむ
エラリー・クイーン『Xの悲劇』

Xの悲劇 (角川文庫) 古典新訳が新たな潮流となっているが、そのなかでも特に注目すべき作品をご紹介したい。ゴダードの名訳などで知られる越前敏弥氏が新たに訳されたエラリー・クイーン『Xの悲劇』である。

 『Xの悲劇』といえば、ミステリファンのみならず、本好きならばその名を知らぬ人のない名作である。また、『Xの悲劇』をはじめとするドルリー・レーン四部作を読んでミステリに目覚めた方も多くおられるだろう。

 越前氏の手になる新訳は、読みやすさはもとより、台詞回しの巧みさが際立っている。登場人物ひとりひとりが血の通った人間として立ち上がり、くっきりとした横顔を見せてくれる。主人公であるドルリー・レーンの言葉遣いは穏やかで品があり、快く響く。忠実なる扮装係クエイシーとのやりとりは、まさにシェイクスピア劇そのものだ。

 老いたる名優と書かれてはいるが、本作でのドルリー・レーンはまだ60歳。溌剌として男盛りの色気さえ感じさせる。新たな衣装をまとった本作を読み終えたとき、『ドルリー・レーン最後の事件』までの四部作をすべて越前氏の新訳で読んでみたいと願わずにいられなかった。

 まだお読みでない方はもちろん、「読んだことはあるけど……」とつぶやかれた方も、ぜひ不朽の名作との新たな出会いをお楽しみいただきたい。

『Xの悲劇』エラリー・クイーン 越前敏弥訳 角川文庫
ドルリー・レーン四部作として知られる他の三作(『Yの悲劇』『Zの悲劇』『最後の事件』)は、ハヤカワ・ミステリ文庫、創元推理文庫等で刊行されている。

(2009年2月)