卑しき街を行く孤高の騎士――その実態は?
『幽霊探偵からのメッセージ』アリス・キンバリー &
『名探偵のコーヒーのいれ方』クレオ・コイル

ミステリ書店(1) 幽霊探偵からのメッセージ (ランダムハウス講談社文庫)  夫を亡くしたペネロピーは、ひとりで息子を育てるため、生まれ故郷の小さな街でミステリ専門書店〈バイ・ザ・ブック〉を伯母と共同で経営している。「夢で会おうぜ、ベイビー」ペネロピーにささやきかけるのは、私立探偵ジャック・シェパード。だが、その姿は夢のなかでしか見られない。

 フェドーラ帽とダブルのスーツの似合うジャックは、50年前、事件に巻き込まれて落命し、なんの因果か幽霊となって〈バイ・ザ・ブック〉に縛り付けられ(こういうのを地縛霊というのだろうか?)、これまたどんなはずみか、その声はペネロピーにしか聞こえないのだ。

 次々起こる殺人事件を解決するため、ハードボイルドな幽霊探偵と書店主の素人探偵がコンビを組んで推理を繰り広げる。

 コージーとちょっぴりハードボイルドを同時に楽しめるのが、このシリーズのいいところである。古今のミステリの名著や映画が随所にあらわれるのが、ミステリファンには嬉しい。現在進行中の事件の合い間を縫って、ジャックを死に至らしめた50年前の事件が少しずつ明らかにされていく。ジャックが生身の私立探偵であった1940年代のニューヨークがかいま見られるのもおもしろい。

名探偵のコーヒーのいれ方 コクと深みの名推理1 (ランダムハウス講談社文庫)

 アリス・キンバリーはマーク・セラシーニとアリス・アルフォンスの夫婦合作のペンネーム。もうひとつのペンネームであるクレオ・コイルの名で〈コクと深みの名推理〉シリーズが出されている。「完璧にいれた一杯のコーヒーは神秘に満ちている」から始まるこのシリーズは、コーヒーの蘊蓄満載、ややコメディ調で、こちらも楽しめるシリーズだ。

〈ミステリ書店〉いずれもアリス・キンバリー 新井ひろみ訳 
ランダムハウス講談社文庫
『幽霊探偵からのメッセージ』
『幽霊探偵の五セント硬貨』
『幽霊探偵とポーの呪い』
『幽霊探偵と銀幕のヒロイン』

〈コクと深みの名推理〉いずれもクレオ・コイル 小川敏子訳 
ランダムハウス講談社文庫
『名探偵のコーヒーのいれ方』
『事件の後はカプチーノ』
『危ない夏のコーヒー・カクテル』
『秘密の多いコーヒー豆』

(2009年1月)