2. NUT CRACKER

正しいクリスマスの過ごし方、なんていうものが存在するとすれば、1999年のクリスマスはそれに近いものとなったかもしれない。すなわち、バレエ「くるみ割り人形」を観ることだ。

その日ももちろん寒かった。クリスマスにバレエを観るというシチュエーションで、ドレスアップしたい気持ちはやまやまだったのだが、男性ならともかく、女性のドレスアップと防寒を兼ね備えたファッションがどうしても思いつかない。しかも車でなく、電車で出かけなくてはいけないので、なんとか妥協点を見つけて出かけた。
 場所はオーディトリアムビル、「ガーディアン・エンジェル」で、マックスの息子のマイクルがシカゴセトルメントのために、CSO(シカゴシンフォニーオーケストラ)とチェロを演奏した所だ。ほぼ100年前に建てられたこのビルは、まるで城のようにどっしりとして美しく、自分が高貴な人間にでもなったかのような錯覚さえ覚える。もちろん錯覚に過ぎないのだが。
 一緒に観にきたパートナーがオケマンなので、オーケストラは良く見えるけれども舞台の端のほうは見えにくい、という変な席をとっておいた。観客はやはり家族連れが多く、小さな子供たちもたくさんいて、クラシックコンサートでは見られないざわついた感じになじめないまま、第一幕が始まった。

ライブでバレエを観るのは初めてで、テレビで「白鳥の湖」などしかみたことがなく、変な先入観を持っていたのだが、この「くるみ割り人形」で今までのイメージがかなり変わった。
 衣装や舞台装飾がとても凝っていて、私のふわふわしたドレスを着てくるくる踊るという恐ろしく貧困なイメージには程遠く、子供がキャストに多く含まれていることにも驚いた。またその子供たちの踊りの上手なこと!! 表情もとても豊かで、楽しそうで、ついつい母親のような気持ちで観てしまった。
 くるみ割り人形に限らず、バレエというのはバレエ団、演出家、その国によってかなり違いが出るらしいが、この、シカゴ・ジョフリーバレエ団のそれは、子供のレベルがすごく高いと、パートナー。例えば、ロシアでは、女性は折れそうに細く、人形のように踊るらしい。私には比較材料がないが、アメリカという国柄、エンターテイメントとして優れていることはとても感じられた。
 観客のほうも盛り上がるシーンでは、手拍子で参加し、一体となって楽しんでいる。アメリカ人は楽しませるのも楽しむのも本当に上手だと改めて思った。
 オーケストラもこの仕事が終われば、クリスマスの休みだと言わんばかりにピットのなかにはテディベアだのクリスマスのソックスだのが置かれていて、ホルン奏者たちは、立ち上がって拍手にこたえるとき示し合わせたようにサンタクロースの帽子をかぶっていた。

「くるみ割り人形」のストーリーはとてもシンプルで最後まで音楽とバレエを楽しむことができた。が、ひとつだけ心残りがある。というのも怪しげなおじさんがくるみ割り人形を等身大に変えてしまう場面でのからくりがどうしてもわからない。一瞬、けむりがあがったかと思うと、もう舞台の中央には等身大のくるみ割り人形が登場していた。彼はどこから出てきたのか!! ちょうど、その場面では、そのおじさんから目を離すように演出されていて、瞬間を見逃してしまったのだ。いくらからくりを考えても思いつかない。

そのあと、教会でクリスマスキャロルに参加したが、バレエの印象がとても強く、帰路でもあのからくりについて、あーだこーだと話し合い、外の寒さに気づくことはなかった。

吉野八英 / Yae Yoshino 2000年1月

写真上:うちのNUT CRACKERコレクションです
下:教会の外で。馬がカメラ目線で笑っちゃいました。寒くてマフラーをまちこ巻き! にしています