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Lifetime

わたしの大好きな本とCD 7

GRAPEVINE「Lifetime」

谷澤美恵

 シングル「スロウ」でGRAPEVINEを知った人が多いという。恥ずかしながら、私もその一人。テレビの歌番組で初めて「スロウ」を聴いた。不安定な揺らぎを感じさせるようなギターの歪んだ音とリズム、そしてボーカルの田中和将の声。ナイーヴそうで、それでいて力強くて…。いっぺんで好きになってしまった。
 この「Lifetime」は2枚目のフルアルバム。田中君の詞がいい。心に響いてくる。言葉を大切にしているのがよくわかる。言葉は思いを伝えるためのもの。彼の詞は、だからちゃんと心まで届くんだと思う。この歌詞が田中君のあの声で、あの音とメロディにのせて歌われると、これはもう何ともいえない魅力となる。流行りのヴィジュアル系とは対極にいる、きわめてフツーのニィちゃんたち。でも、決して素通りできない、振り返らずにはいられない引力を持ったバンドだと思う。ちなみにバンド名の GRAPEVINE は、マーヴィン・ゲイの曲名「I heard it through the grapevine」から命名したのだそう。「よくない噂」という意味があるらしい。
 世にあふれる、過剰な演出や不自然な笑いを「へっへっへ」と笑ってかわすような小気味良さもあるが、歌われていることの多くはヒリヒリするような切なさである。後悔、決して戻ることのない時間、傷つけられた痛み、傷つけた痛み…。彼らの曲はそんな傷に触れる。もう忘れたと思っていた痛みがよみがえり、切なさに声を上げて泣いてしまいたくなる。
 それでも、剥き出しになった傷はまた少しずつ癒されていく。GRAPEVINEの音楽に出会えて本当にうれしい。

1999年9月

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