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街角の詩

わたしの大好きな本とCD 4

スザンヌ・ヴェガ「街角の詩」

谷澤美恵

 スザンヌ・ヴェガのデビューアルバム。雨の降る日に、ふとこのCDが聴きたくなります。どしゃ降りじゃなく、静かに降り続くような雨の日…。スザンヌの声は、静かに降る雨の音のように、耳に心地よく語りかけてきます。一昨年、大阪のクラブ・クアトロで行われたライブで歌われた曲のほとんどがこのアルバムからのものでした。アコースティック・ギターとベースのみのシンプルなステージで、ギターを抱えたスザンヌは曲名もほとんど紹介せず、淡々と続けて歌っていました。
 このアルバム中、私が特に好きなのは4曲目のSmall blue thing。私のまずい訳では微妙なニュアンスまで伝わらないかもしれないし、正確ではないかも知れませんが(なんて無責任な…)、一部を紹介すると、「今日の私は、ちいさな青いもの/大理石のような/瞳のような/ひざに口をぴったりとつけて/私は完全な球体/あなたを見てるの」。そして肌に触れるとひんやり冷たい感触のこの球体は、彼の姿をくっきり映し、彼のポケットの中から無くなって階段を転がり、歩道を飛び跳ね、空に放り投げられて 粉々になって雨のしずくのように降り注ぐ。光のようにきらめきながら…。 

 以前彼女が「自分以外のものを書いて語っていくのが好き。素直に感情を表現するより、人が反応できる情景やイメージを言葉によって描き出す方が得意なのよ」と語っていたんですが、本当に彼女の歌を聴いていると、写真のようにその情景が見えてくるような気がします。揺れる木の葉の間からキラキラと降り注ぐ暖かい午後の日差し、日が沈み始める時間の冬の公園、そして宮殿の一室で、女王を前にひざまづく兵士…。
 最近では、自分の内面の感情などを描いた曲を歌う事が多くなりましたが、それでも根本的な、厳選された言葉の美しさや、歌の中に描かれる情景の豊かさは変わっていません。
 なんとなく、「一人でいたいな」思うとき。陽だまりの午後や静かな夜…。そんな時にこのアルバムはぴったりだと思います。

1999年3月

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