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映画で夢見る、映画で目覚める 1

恋のドラマに酔いしれる

杉谷久美子

 少女時代にみた『しのび泣き』(ジャン・ドラノワ1945)はLDが出ているのだが、みるのが怖い。思い出だけを持っているほうがいいかもしれない。酒で身を持ち崩した放浪のバイオリニストのジャン・ルイ・バロウと貴婦人エドウィージュ・フィユールの絶妙な恋の表情。映画館を追いかけて、何度みたことだろう。
 映画館でみたことはないのだが、TVでみて、LDが出るなり買って、あきないのが『美女と野獣』(ジャン・コクトー1946)だ。ジャン・マレーとジョゼット・デイのこの世のものでないような美しさ。お城の中の超現実的なさまざまなできごと。これこそが『美女と野獣』。
 『マンハッタンの哀愁』(マルセル・カルネ1965)は2回続けてみて、もう1回行って2回続けてみた。これはビデオも出ていないのでどうしようもない。アニー・ジラルドの元上流階級の女性が落ちぶれてマンハッタンをさまよっていて、バーにはいると、モーリス・ロネがいて、という話で、アニー・ジラルドのレインコート姿を鮮明に覚えている。

 『黄金の腕』(オットー・プレミンジャー1955)、原作ネルソン・オレグレン、タイトルがソール・バス、音楽がエルマー・バーンスタイン。フランク・シナトラが元トランプ賭博師で更生しようとするが昔の仲間が許さない。麻薬中毒を助ける恋人がキム・ノバーク。部屋を閉め切って、刃物を遠ざけて麻薬を絶つシーンがすごかった。ひどい奥さん役がエレノア・パーカー。1回しかみていないのになんでこんなに覚えているんだろう。音楽もバッチリ口ずさめる。
 『赤い河』(ハワード・ホークス1948)は、モンゴメリー・クリフトが好きで、好きで、これも映画館を追いかけてみた。ジョン・ウエインやジョーン・ドルー、ウォルター・ブレナンなどもよくやっているけど、私にはモンティだけ。細い腰をねじって拳銃を撃つときのかっこいいことったらない。それはそれは美しい顔。輸入版のLDを買って、アイロンをかけながらとか、いちばんよくみている。日本語版ではつい字幕を読んでしまって表情を見損なうので、こういう映画は輸入版にかぎる。
 もう1本好きな西部劇は『ペイルライダー』(クリント・イーストウッド1985)、なんか白馬の騎士みたいなのに女好きなイーストウッドが好き。2本とも異色の西部劇だ。クリント・イーストウッドではアクションもの2作『ガントレット』(1977)『タイトロープ』(製作クリント・イーストウッド/監督リチャード・タッグル1984)、前者はソンドラ・ロック、後者はジュヌビエーブ・ビジョルドがとてもよい。彼の映画はいつも女性が尊重され、きちんとしているところが気持ちよい。
 アクションものはいっぱいある。まず『グロリア』(ジョン・カサベテス1980)はジーナ・ローランズとプエルトリコの少年の逃避行。ニューヨークの街のロケと、ウンガロの服を着こなしたジーナの拳銃を持った姿が今も目に浮かぶ。

 『ガルシアの首』(サム・ペキンパー1974)はウォーレン・オーツがメキシコですでに死んだ男の首を求めてさまよい歩く、ペキンパー後期の傑作。そのウォーレン・オーツが犯罪王デリンジャーに扮した『デリンジャー』(ジョン・ミリアス1973)はジョン・ミリアスの初監督作品。かっこいい。男の哀愁を感じてしまう。
 そうそう男の哀愁といえば『狼は天使の匂い』(ルネ・クレマン1972)、老優ロバート・ライアン、若き日のジャン・ルイ・トランティニアンの男の友情がせつない。ミッキー・ロークをはじめてみて魅せられた『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(マイケル・チミノ1985)も忘れられない。だいたいにおいて、刑事が2人組んで出てくる映画はOKです。何でもみる。
 あああ・・これを忘れたら大変!『殺しの分け前 ポイントブランク』(ジョン・ブアマン1967)はリチャード・スターク『悪党パーカー』を原作にリー・マービンとアンジー・ディキンソンのハードボイルドな映画。みたときは興奮した。最近レンタルでみたけど、やっぱりよかった。気取り方が半端じゃない。
   野球の映画は『ナチュラル』(バリー・レビンソン1984)と『さよならゲーム』(ロン・シェルトン1988)がいい。両方とも中年の苦労人が主人公。前者はロバート・レッドフォードが若いときにアクシデントにあって、苦労の末にたどり着いたチームで打撃が爆発。夢のようなホームランを打つ。若き日のグレン・クローズ、キム・ベイシンガー、バーバラ・ハーシー(なんと悪女)をみるのも楽しい。後者はケビン・コスナーの映画の中では一番しぶい。スーザン・サランドンとティム・ロビンスはこの映画で出会ったのだろうか? 
 ボクシングはたくさん名作があるけれど、この1本!『パワー・オブ・ワン』(ジョン・G・アビルドセン1992)を最近TVでみて感激した。南アフリカ生まれのイギリス少年がボクシングをモーガン・フリーマンから学び、アパルトヘイトと闘う。『ロッキー』といえばシルベスタ・スタローンと思っていたが、監督がこの人だった。アフリカの呪術やまじないが土地の自然に根ざしているということがよくわかる。南アフリカの歴史もよくわかる。

 青春もの、成長ものはまたまた好きなジャンル。『セコーカス・セブン』(ジョン・セイルズ1980)と『再会の時』(ローレンス・カスダン1983)もLDでよくみる。両方とも60年代の反戦運動の学生たちが10年後に集まるもので、前者はマイナー、後者はメジャーな作りだが、青春のほろにがさと、いまをきちんと生きる強さが単なる回想ものでないシンのある映画。『ダイナー』(バリー・レビンソン1982)はミッキー・ロークをみるための映画だが、ケビン・ベーコンやエレン・バーキンなどの若き日がみられていい。<BR> 『ビック・ウエンズデー』(ジョン・ミリアス1978)は夏がくるごとにみる。大きな波が来た日、もう別々の生活をしている3人が揃ってサーフボードを抱えて歩くところがなんとも言えずいい。最初にみたときはミナミの浪速座で深夜、アメリカ村のサーファー連中がいっぱいでおもしろかった。あのころのアメリカ村はサーファーの街だった。
 『アメリカン・グラフィティ』(ジョージ・ルーカス1973)『ラスト・ショー』(ピーター・ボグダノヴィッチ1971)も忘れられない。

 女性ものでは『女ともだち』(ミケランジェロ・アントニオーニ1956)、私の大好きなイタリアの作家パヴェーゼの原作を映画化したもので、都会の4人の女性が描かれる。長い間あこがれていたが、レンタルでみることができた。『ア・マン・イン・ラブ』(ディアーヌ・キュリス1987)は、『女ともだち』を書いた作家パヴェーゼの生涯を映画化する話の映画で、グレタ・スカッキがナイーブで美しい。映画の中の映画で作家になるスター役のピーター・コヨーテがたまらなくいい。『ET』で救助隊員をしてたけど、この映画ではものすごく繊細。女性監督ならではのきめの細かい描写がすごい。『三人姉妹』(マルガレーテ・フォン・トロッタ1988)はチェーホフの原作を現代のイタリアに移した、女性監督による女性映画。ファニー・アルダン、グレタ・スカッキ、パレリア・ゴルノ、この3人がとてもすてき。

 『シェルタリング・スカイ』(ベルナルド・ベルトルッチ1990)で、はじめてジェイン・ボウルズとポール・ボウルズを知った。そしてミリセント・ディロン著『伝説のジェイン・ボウルズ』でくわしくジェインやそのまわりの人々のことを知ることができた。17才のジェインが作家セリーヌと知り合うところは映画みたいだけど、ほんとの話です。
 今回はここまで。めちゃ影響を受けたゴダールやトリュフォー、フェリーニ、ヴィスコンティ。SF、ドキュメンタリー、ダンス映画、そして私の真骨頂(?)であるところの乙女ものも書きたかったけど次回にします。

1996年12月

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