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今月の散策情報 7

ピレネー山麓を歩く

栗林ヨウ子

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オルデサ:屏風のようなサラロス山

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オルデサ:山の中腹で一服

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アイグレストル:これから登る山の案内板の前で(右が栗林)

オルデサ国立公園

 近頃夏になると何故か高山植物の花々を無性に見たくなる。今年は少し足を伸ばして、といっても遠すぎる位だが、スペイン・ピレネー山脈の裾野の国立公園まで行くことにした。スペイン第2の都市バルセロナにパリ経由で14時間、ようやく到着。日本との時差は7時間。
翌日はガウディのサグラダ・ファミリア聖堂を見学、一歩中へはいると、工事現場という有様で、あと何年、何十年、何百年かかるのかなと思う。午後は、バスでレリダという街に向かう。ひまわり畑やオリーブ畑がどこまでも続き、地中海に面したバルセロナ地方から随分、内陸まで進んで来た。レリダは要塞で囲まれたような所だ。
 3日目は13世紀に建てられたカタルーニャ地方で一番古い教会、セオアンデグラ大聖堂を見学したのち、午後には移動、アラゴン地方に入り、ピレネー山脈の中心、オルデサ国立公園の入り口、トルダに向かう。

 遠くに山の峰々が見えて、いよいよ目的地が近いようだ。通り過ぎる街並みも、石を積み重ねた家が多くなる。バカンスシーズン(7月〜8月)なので、カフェテラスなどで、くつろいでいる姿が多く見られる。バスはいくつもの街を通り過ぎ、曲がりくねった坂道を登っていく。前方の山々は山肌を黄色に染めているので不思議に思っていると、エリソンという黄色い花がこの時期に咲いているとの事。
トルダは高い尖塔の教会を中心にした小さな集落だ。何軒かある中で、エーデルワイスという小さなホテルが今夜と明日泊まる宿で、今までに日本人が宿泊したことがないという。
翌朝7時頃、ようやく明るくなったので、朝食をゆっくりとったあと、昼のランチを受け取り、国立公園に向かうバスに乗る。公園の入り口でバスを降り、歩き始める。アラサス川沿いを遡ると、深い渓谷になっていて、登るにしたがって、滝が増えてくる。
谷筋から上を見るとサラロス山(2748m)が屏風のように立ちはだかっている。石灰岩で岩登りには不向きかと思っていたが、双眼鏡をのぞいてみると、岩登りをしている人が豆つぶのように見えた。心地よい冷たい風がさっと汗をぬぐいさってくれる。途中、涼しい河原でランチを食べて引き返す。この辺りは花の種類も多く、松虫草やキンポウゲ、トゲのあるうす紫のスペインビオレランが一面に咲き誇っている。森にはミズナラやダテカンバの苔むした木が茂り“アガッテヤロ”という名前の鳥が木の幹を登るらしい。ガイドは、鳥の図鑑を見ながら熱心に教えてくれる。
ヨーロッパの人達は何日間もバカンスを楽しみ、色々なコースを歩いているようであるが、我々はそんな余裕が無いので、残念だが、次の日はアラン渓谷の中心のビエラへと向かった。

アイグレストル国立公園

 バスは、ピレネー山脈沿いの道を東に向かって走っていく。雪解けの水が岩肌をぬうように流れるエスタ川の渓谷沿いを登り、スペインで一番長いビエラトンネル(5280m)を抜けると、眼下にビエラの街が見えてくる。1948年にトンネルが完成する迄、標高1000mのビエラは、外部から孤立していたが、今では冬はスキー、夏は避暑地として賑わっている。
 翌日、タクシー(四輪駆動)に乗り、アイグレストル国立公園へハイキングに行く。ガイドはイシドロ・ゴンザレスさん。冬はスキー指導員、夏は山のガイドをしている、感じのいい青年だ。
 車を降り大小35の湖が点在する山に登る。この辺りの山は、氷河の上に隆起して出来上がったらしい。小石の入り混じった白い石灰石の土壌で、急な山道だが登りやすい。すぐ湖のほとりに到着。湖は底が見え、魚が泳いでいる。チャイブ(アサツキに似たハーブ)の花が満開で、日本の山でもよく見かけるウサギギク、ツリガネニンジン、シシウドなどが咲く、花畑になっている。一つの峠を登れば湖に出るという繰り返しが続き、最後は氷河の見える湖にたどり着く。目の前には、ノコギリのように切り立つピレネーの峰々。現地の人達がこの冷たい湖で泳いでいるのを見てびっくりした。
 午後は12世紀頃に建てられたモンガレリ教会へと向かう。牧草地になっている山の一本道を1時間半ほど歩くと川のほとりにぽつんと教会の尖塔が見えてくる。夏の期間のみ内部を見学出来るが、礼拝堂の中は、暗くてあまりよく見えない。ここは外からの眺めの方が絵になるようだ。
 見学を終え外に出ると大粒の雨と雷。草原の中での雷は、怖くて生きた心地がしなかった。放牧されている牛達も群をなして家路に向かっている。

 翌日は、昨日登った山の裏側にあるボルタ湖を3時間ほどで一周する。湖の入り口で高校生らしいグループに出会う。男の子はパンツだけ、女の子はタンクトップという軽装だ。日照時間の短いヨーロッパの人達にとって、夏は太陽を思う存分、体に受けられる季節。帽子、手袋、長袖シャツ、長ズボンの日本人を「カラフル」と誉める(?)イシドロさんに、「日本人は日に焼けるのを嫌うから」と返事すると、声も出ないくらい驚いていた。
 高山植物はほとんど日本と同じ種類、ただ初日に見たスペインビオレランは珍しい。もう少し日程があればもっと歩けたのにと思いつつ、旅を終えた。

2000年2月

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