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Chissarossa の I LOVE CINEMA 31

〜バベルの塔は神の怒りに触れ、『バベル』は人に希望を与える〜

 う〜〜ん、とってもいいわあ。ものすごい好みの映画だわあ〜〜。
なんて言うか・・・・バランス感覚がスゴくイイ。公正っていうか、冷静っていうか。とにかく、よいよい。見る人それぞれに、それぞれの問題を突きつけてくる様な鋭さとか厳しさとかがあったり、世界の縮図を見せつけられて重たい気分にもなるけれど、しかっりした映画が登場してきたもんだなあ・・と感慨にふけってしまいました。

《モロッコ》
 遊牧で暮らすアフメッド(サイード・タルカーニ)とユセフ(ブブケ・アルト・エル・カイト)の兄弟は、ヤギを襲うジャッカルを撃てと父から一丁のライフルを渡される。兄のアフメッドはどうも射撃が苦手なのに、弟のユセフはやがて名手と言われるであろう腕前。兄弟が争って試し打ちを始めたが、次第に熱はエスカレート、ついにその銃口が山道を走るバスに向けられた。
 バスは、観光バス。アメリカから来たリチャード(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)は、二人の間に出来た悲しみ深い溝を埋める事が出来るかもしれないと、アメリカに幼い子ども二人を残し、この地へ旅に来ていた。
 一発の弾は、スーザンの肩を打ち抜いた。

《アメリカ》
 アメリア(アドリアナ・バラッザ)は迷っていた。彼女はメキシコからの不法就労で16年間アメリカに住んでいる。明日は息子の結婚式だというのに、彼女の雇い主はまだ帰れない、幼い子どもを残したまま。モロッコで銃撃されたというのだ。マイク(ネイサン・ギャンブル)とデビー(エル・ファニング)は、生まれた時から彼女が育て上げた。雇われた乳母とはいえ愛情を注いで育ててきたかわいい子ども達だ、無責任な事は出来ない。
 アメリアは甥のサンチャゴ(ガエル・ガルシア・ベルナル)に迎えにきてもらい、二人を連れてメキシコに戻る。

《日本》
 チエコ(菊池凛子)は聾唖の高校生だ。9ヶ月前、母が自殺して、今は父(役所広司)と東京の高級マンションに二人で暮らしている。経済的には優雅だが、チエコは常に苛立っていた。言葉の不自由さに思いが伝わらないフラストレーション、社会からの疎外感、孤独感・・・すべてが腹立たしい。人と触合う事に渇望している自分がいるのは解っている。だからいろいろ無茶をしてみたくなる。
 ある日、マンションへ、父に話が聞きたいと刑事が訪ねてきた。母の死因にまだ問題があるのか?

 テロ事件としてスーザンが撃たれたニュースが世界を駆け巡り、政治的交渉がからみ、なかなか救出されず時間ばかりが過ぎていく。苛立からリチャードは、スーザンを助けようとしてくれている現地の人々に傲慢に当たり散らす。ツアーバスの客達は危険と疲労とからリチャード達を置き去りにしてしまう。絶望的な環境の中、弱っていくスーザンと初めて向き合い、赤ん坊を亡くした時の悲しみと恐怖を語り始る・・・・
 一方、リチャートたちの子どもの乳母をしているアメリアは、息子の結婚式も大成功、子ども達もすっかりメキシコを楽しみ幸せな気持ちでアメリカに向かったが、国境検問でサンチャゴの飲酒運転が疑われ、検問での屈辱的な対応にサンチャゴはついにキレてしまい、強行大突破のあげく、アメリアと子ども達を砂漠に置き去りにしてしまう。炎天下の中、弱っていくデビーを抱えながら、アメリアは必死で救出を求めてさまよう・・・・
 東京では。チエコは、父の事で話があると刑事を呼び出す。訪ねてきた刑事から、母の死は関係なく、父の銃が、昨今ニュースで流れているテロ事件に使われ、父靖次郎が本当に地元ガイドに譲ったものかどうか確かめたいのだと聞く。母の死に関係ないと知ったチエコは素っ裸になって刑事の前に佇む・・・・
 モロッコでは、警察の調査は迅速に進み、アフメッドとユセフのところにもついに追及の手がのびる。父は子ども達から事情を聞き激怒するが、子ども達を連れ山中に逃げる・・・

 旧約聖書の創世記に記されたバベルの街の話では、天まで届く塔を作ろうとして神の怒りにふれてしまい、神は言葉をバラバラに、人々をバラバラにしてしまったとなっている・・・このバベルがこの映画の題名です。短いけれど重い題名です。劇中、アメリアにマイクが「悪い人なの?」と聞き、アメリアが「いいえ、私は悪い人間じゃない。ただ愚かな事をしただけ・・・」と答えるシーンがありますが、とても印象的です。本当に、人は愚かな生き物・・・短慮に考え、言葉を疎かに使うなら、言葉を使ってコミュニケーションを取る人独自の文化は意味がないと悲しくなります。しかしながら、愚かだと認識した時、誠意(キリスト教的には「愛」でしょう)を持って言葉を使い始め、誠意を持って行動し始める・・・その時が希望の生まれる時だとも思えてきて、重いのにきっぱりの感です。
 うん、見てよかったわ〜ほんとに・・・・・です。ほんとに、言葉飾りなく、機会あらば、ぜひぜひご覧ください!

2007年5月

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