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Chissarossa の I LOVE CINEMA 20

「モンスター」これがあのシャーリーズ・セロン!?

 シャーリーズ・セロンがどんな美人か御存知?映画の宣伝やプレヴューを見ないで、且つ、シャーリーズ・セロンがどんな容貌をしているのか分っている人が見たら・・・一体、どれがシャーリーズって思う?でしょう・・・。それぐらいの変貌ぶりで、ホントに驚き、驚きのタダ一言。やたらにこの映画の話題が、シャーリーズの化けぶりに集中するのは仕方のない事、この話題を何度してもしたりないと納得してしまいますね。
 どうやって、化けたかと言うと・・・なんでも、顔にはゼラチンやら特殊ゴムを薄く装着していって(特に目の周り)、厚ぼったい顔だちに、眉は抜いて廃退の感じを、極付けは体重は10ポンド以上増やしたとか・・・13キログラム・・・いやいや、私が見る限り、身長180cmもある人があれだけ体重を増やしたら、そんな10キログラムぐらいの事ではすまないと思うのですが・・・あの太った感じも、ただ体重を増加させただけでなく、ゼラチン等で工夫しているのかもしれませんね・・・しかも、惜し気もなくその醜い状態を、画面一杯にさらけ出してくれているので、真実味が増し、ド迫力でした〜もちろん、アカデミー主演女優賞、、ゴールデングローブ最優秀女優賞、ベルリン国際映画銀熊賞最優秀女優賞、見事に、総ナメ状態ですが、はい、こればかりは誰も文句を言う気にはなれませんでしょう。

 さて、ワイドショウ的なお話は、このくらいに。
 シャーリーズの変貌ぶりに話題が集中して、映画そのものが正当に扱われていない様に感じるぐらい、内容はすざまじきものです。女性にとっては、胸が潰れる思いがするでしょう。案の定、拙者は不眠気味になりました。ここに描かれている様は、VICシリーズに登場する多くの被害者・・・か弱き者・・・社会の隅に追い立てられ、全ての支配を真っ向から受けてる人々が、どうしようもなく転落して行く様です。もし、VICが実在で、主人公アイリーンにVICが付いてたら、彼女はきっと死刑にならず
にすんだんじゃないかとさえ、想像してしまいます。

 「モンスター」は1986年、アメリカで本当に起った事件を映画にしています。アメリカ初の女性連続殺人事件の犯人、アイリーン・ウォーノス、何故、彼女は”モンスター”と呼ばれる様になったのか?

 生まれた時から捨猫の様に扱われ、不幸な環境で育ったアイリーン(シャーリーズ・セロン)は、選択する方法もなく、13歳から娼婦として何とかして生きて来た。もう全てに絶望、気力も限界に来たと、銃を片手に自殺を考えたある夜、生まれて初めて、アイリーンを「綺麗・・・」と言ってくれ、娼婦だからと軽蔑することなく向き合ってくれた人間、セルビー(クリスティーナ・リッチ)と出会う。
 セルビーとの出合いをきっかけに、アイリーンは新しい人生を歩もうとするが、とにかく、何をするにもお金は必要なのだ・・・住む所も、貯えも持たない彼女は、今夜も客を取らざるを得ない。
 そして、事件は起った・・・・。ロープで縛り付けらた挙げ句、硫酸をかけられる・・・誰もいない森の中に、彼女の絶望的な悲鳴が響き渡る・・・痛みにのたうちながら、ほんの一瞬、神が味方したか、手に持つ事が出来た自分の自殺用の銃で、客を打ち殺した・・・・・。そして、生まれて始めての友達との約束を守るため、アイリーンは、その足で、傷むであろう身体を引きずりながら、セルビーに会いに行く・・・。
 アイリーンは、本当に出直そうと、やっきになってまともな就職を探すのだが、早くに学校をドロップアウトしてしまったので、出来る仕事はなかなかない。いわゆるハローワークに行っても、担当者の口から出て来る言葉は「前科は?」だ。またしても金銭的に追い詰められるアイリーン。でも、あの事件から、恐くて娼婦として道には立てない・・・でも、セルビーがお腹をすかして待っている・・・。結局、恐怖を押し殺し、夜の道に立つアイリーン。そうして、アイリーンは殺人を重ねて行った。

 確かにアイリーンは連続殺人犯人です。だけど、これが「モンスター」でしょうか?8才からレイプされ続けて来たと語るアイリーン。13才で子どもを産まされ、妹や弟の為に街角に立って稼いだアイリーン。
 彼女の事件の判決は全て”死刑”でした。アイリーンは、この映画が撮影に入る2002年12年の服役の後、死刑に処されました。
 そのアイリーンの台詞に「人は娼婦を見下す。自堕落な生き方だと思うからだ。でも、この仕事をするには強い精神が要る。”何があっても切り抜ける”私はそうやって生きて来た。」というのがあります。そう、娼婦という仕事は、どんな危険が待っているかもしれなくても、必ず、無防備に全てを晒すという事なのです。これで生き続けられるのは、単にラッキーなだけでしょう。それも、若い間だけ。アイリーンはもう30を過ぎ、盛りを終わってしまっていました。虚勢をはって肩をそびやかし、セックスアピールしながら道を歩くけど、もうそんなに簡単には人は振り返らない。その先は・・・・
 始めの殺人の頃、アイリーンは「神に恥じるような事はしていない」と言い切っていました。暴力を奮う男、レイプする男、幼児虐待をするような男は殺されて当然だという論理です。しかし、捕まると分った時には、セルビーに「私のした事を許して欲しい。私は自分を許せない。自分のして来た事全てが許せない」と言いながら、彼女を家へ帰します。・・・これでも、彼女はモンスターなのでしょうか・・・
 事件は1986年に起りましたが、今まさに、日本の現状のような気がして・・・豊かな国と言われるものの貧困とはこんなものか・・・と。『罪を憎んで、人を憎まず』・・・と言いますが、今回、それを強烈に思い出しました。社会の底辺で、犯罪をおかす人の多くは、また、同時に被害者であるという事。持たざる者のどん詰まりの不幸と、持てる者の不毛な鈍感さ。犯罪に対する怒りは、むしろ、それを作り出した社会の問題追求や改善と言うパワーに向けるべきか・・・これは、VICが探偵と職業を選んだ所以に通じるところだとも思いました。
 アイリーンを迫真の演技(虚勢をはった歩き方や、傷つき恐怖で震える繊細な心情表現ぶりは、誠にあっぱれ!)で演じ、見事様々な賞を手にしたシャーリーズ・セロン、彼女もまた、自ら悲惨な経験を持つのです。15才の時、父のアルコール依存症による家庭内暴力の果て、殺されそうになったのを見かねた、彼女の母は、彼女の父を射殺しました。幸い?正当防衛が認められはしましたが・・・。アイリーンを演じる事になったのは天命と言うものかもしれません。
 多分・・・様々な事を考えさせられる映画だと思います。シャーリーズの変身ぶりも見物ですが、たまには真面目な感じで、是非に、見て頂きたい映画です。

2004年10月

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