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Chissarossa の I LOVE CINEMA 19

「華氏911」ドキュメンタリー映画の価値

 あれから3年が経った。9月11日・・・ニューヨーク、アメリカ本土が、初めて攻撃された日。アメリカはニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が激突、約3000人もの人々の命を奪った同時多発テロル。今日、テレビのニュースでは、3回目の追悼式が重々しく執り行なわれている様子が、頻繁に流されている。このテロルでは、犠牲者に、アメリカだけでなく世界各国の人々が沢山いたと言うのが、悲劇の様子を一段と高めており、アメリカという国の問題が、世界中に直接影響する事を示唆しているようだ。

 さて、この「華氏911」なる映画・・・2004年5月、フランスで開かれたカンヌ映画祭(有名度では、アメリカ・アカデミー賞と同等)において、なんとドキュメンタリー映画としては、48年ぶりにパルムド−ル(カンヌ映画祭においては最高の賞ね)を受賞するという快挙を成し遂げた!

 この題名・・・どっかで聞いた事ないか?・・と思われる方も多いだろう、そう、SFの巨匠、レイ・ブラッドべリの『華氏451』に倣ったものだと、監督マイケル・ムーア自身が告白している・・・この告白事態、マイク、君はかわいい〜 

 このタイトルの付け方からも判る様に、深淵な部分をクローズアップさせているのにもかかわらず、映画全体は、マイクらしくお茶目で軽〜いノリで作られている。ニュース映像のブッシュを、テレビドラマを挿入して、ちゃかちゃか茶化してみたり、バックに流れる音楽はコアなロックだったり、超脳天気なゴーゴズだったり・・・。一部からは、こういうところが気に入らんと叩かれていたりもするのだが、深淵な部分を深刻な様子で写し出すなら、世界に誇るべく我が日本国のNHKが、ばっちりやってくれるだろう・・・ただし、マイクほど、際どい情報はつかめないままに終わるだろうが。ハッキリ言って、この映像はエグイ!というものまである・・・日本じゃ放映されないだろうと予測出来るパターン・・・故に、せめて音楽だけでも軽くなければ、140分も見続けられないのではないかと感じるし、この軽快さが余計に皮肉をエスカレートさせている・・・というくらい、事の本題は、重いのだ。
 
 911同時多発テロルについては、その問題点も、その後の経過も、今や知らぬ方等居られるであろうから、印象的だったところをあげてみる。
 軍の採用担当官が、貧しい地域の高校生達をターゲットに、巧妙に入隊の勧誘をする様と、家族の生活保証と自身の学費の為に、命をかける契約をせざるを得ない17、18才の若者達。その母親は、国のために尽くしているのだからと、息子や娘を差し出し、それを誇りに思っている。一方、議員の子どもは、誰も兵役についているものはいないと言う真実が示される・・・マイクは、戦争賛成なら、議員達に自らが見本を示し、自分の子供達を戦争に派遣させようという書類を持って、体当たりにサインを求めに歩くが、見事に無視される様子。やがて息子の死亡を知らされ、怒り、ホワイトハウスの前で泣き崩れる母親の様は、真に心が痛くなる。彼女は、マイケルのインタビューに答えていった事で、弱者の命の犠牲によりこの国が成り立ち、富めるものが更に富む仕組みを、ホワイトハウスがつくり出していると気がついていく。
 イラクでは、無知なアメリカ兵の遊び感覚的な態度に、任務という言葉の元で繰り広げられる無神経な行動。現実に直面し、震え上がるアメリカの若い兵士達。一般市民が爆撃に晒され、被害者となっている様子・・・老婦人が「神よ、どこにおられます!?」「アメリカを許さない」と叫ぶ場面は、見ているこちらも膓煮えくり返るという感である。
 そして・・・同時多発テロルが起った時の、数分間にも及ぶ、ブッシュのパニックの中に固まった顔・・・これは目に焼き付く・・・
 ドキュメンタリーの性とはいえ、監督マイケル・ムーアのアポイントを取らない突撃取材は、困難を極めたであろうと簡単に推測されるし、見終われば、よくぞこの映画をアメリカで上映出来たものだとさえ思ってしまう。

 ドキュメンタリーは今日、テレビ報道の十八番かと思っていたが、考えを改めた!年月をかけ、一つ一つ丁寧に事実を検証し、その時々のニュースや新聞報道だけでは確認出来ない真実が暴き出せるもの、そして、それを見ごたえたっぷりに構成して行くには、映画は効果的なのだと。
 しかし、更によく考えてみると・・・どうやらこの世界では、自分の好みの情報を沢山流した方が正義といわれる様になるらしいと気がつく・・・。ということは、問題は、片寄った真実に晒されないにはどうすれば?私達は何を信じればよいのか?なんじゃないか?・・・・はあ、さてさて、毎回、新しいニュースの度に、マイケルがちゃかちゃかと検証してくれる訳じゃなし・・・ひたすら冷静に、良心に基づいて深く考えるしか手はないっ手事ね・・・。ん?おやおや・・・今日は「アホでマヌケなマイケル・ムーア」って本が出版されたって・・・反対側意見もちゃんと聞かなきゃネ、一本の映画を見たが為に忙しいこった〜

 * マイケル・ムーア (=監督、脚本、製作) *
 2002年に起ったアメリカ・コロンバイン高校生による銃乱射事件をきっかけに、アメリカの銃社会の問題を鋭く描き出したドキュメンタリー「ボウリング・フォー・コロンバイン」で、2003年アカデミー最優秀長篇ドキュメンタリー作品賞受賞。テレビ番組でも「マイケル・ムーアの”恐るべき真実”アホでマヌケなアメリカ白人」は、2期連続でエミ−賞にノミネートされている。また、ノンフィクション作家としても有名で、「おい、ブッシュ、世界を返せ!」はドイツの2003年ブック・オブ・イヤーにも選ばれた。

2004年9月

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