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Chissarossa の I LOVE CINEMA 6

〜エデンの彼方に〜 FAR FROM HEAVEN

 1957年、ハートフォードに住むキャシー(ジュリアン・ムーア)は、会社重役である夫(デニス・クエイド)と子ども二人に囲まれたブルジョワ家庭の模範主婦として町じゅうの羨望の的。しかし、夫が酔っ払って逮捕された日を境にその平和な家庭に異変が・・・。同性愛の発展場である映画館で自分が同性愛者だと気づき驚き荒れる夫、差別横行の社会の中で黒人の庭師と語ることで心が癒されるキャシー。やがてゴシップは町じゅうを走り、羨望の的であった完璧な家庭=エデンは壊れていく(本当の人生はそこからスタートする・・・って言う意味なんでしょ、それで原題は「FAR FROM HEAVEN」なのね)。夫婦は何度かやり直しを試みるけれど上手く行かない・・・やがて夫は、初めて人を愛することを知ったとキャシーに離婚を懇願する(結局、キャシーとのバカンスで知り合った若い男の子に一目惚れ、即、恋に落ちてしまった)。一方、キャシーとの噂のおかげで庭師レイモンド(デニス・へイスバード)とその娘は白人社会からも黒人社会からも虐めにあい町を出て行くことになる。そう、「一人だけ違うってどんな気持ち?」とレイモンドに聞いたキャシーが自身で体験してしまったの、一人だけ違うって事を。でも、離婚の手続きが出来たと夫から知らせの電話が来た時もキャシーは泣かないで冷静。キスさえ交わすことなく終った恋、レイモンドが去るのを見送った時も泣きたいけれどがまんできた。もはや社会の規範などに振り回されずに自分の選び取った結果を、責任もって引き受ける覚悟が出来てるから・・・。
 たくさんの言葉が浮かぶなあ。古き良きメロドラマ。しかも、上質にて上品。しかも、思想的。一見、1950年代のアメリカハリウッド映画の作り直しか?とも思えるが、チョット違うか・・・それより少しメッセージが強いイプセンの「人形の家」をイメージするべきか・・・。ま、ボーっと見ていても、その上質ゆえ、メロドラマとして十分に楽しめるってもの。それでも、ジュリアン・ムーアが主演だからして、きっと只者ではないのよ・・・と気合を入れてみてると、ほらほら見えてくる、いろーんな事柄が・・・。
 まずはその映像。テクニカラーって、「風と共に去りぬ」とかの映画黄金期時代に流行った方法だけど、作為的に色付けした画面・・・とでも説明すべきか。だから、よき映画は凝りに凝りまくってる、ワンカット、ワンカットの色彩をゴッホ風とかルノアール風とか、絵画のように考えに考え〜というわけ。「エデンの彼方」では全体の色調テーマは、紅からディープオレンジと私は見ましたね。紅葉やマンサクのイメージ(これらも実に上手く小道具として使われてます)ね。車だって、50'sのオールディーズなんだけど、これだって車種もカラーもよく風景に合わせてあります。
 さらに、見事なのはお洋服!超ワンダフル〜〜!主人公の友人達は「麗しのサブリナ」「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーンに、襟を立てたブラウスのローレン・バコールそのまんまだし、主人公はハイウエスト、パニエでふんわりスカート、小さな同生地包みボタンのぺプラムジャケットで七分丈のお袖に、襟も何通りか縁取りがしてあって凝ってあるし、とどめはおそろいの生地でヘッドドレス!お出かけの際には必ず長めの手袋ね。素敵〜〜〜これぞ、50'sヴィンテージ・ファッ
ション!これを観させていただくだけで、ファッションに興味のある方は価値大有りの映画です。衣装担当は今や才能の塊、サンディ・パウエル。今日、これだけきっちり構成できる監督(トッド・へインズ)もそうそういないと思いますね。なんで、これだけ、そのコスチュームたちに注目してるかって言うと、主人公がブルジョワ家庭の典型的主婦から、その社会の閉塞感を自覚し、人種差別やジェンダーや同性愛などの問題にぶち当たり、乗越え、自立していく過程を「洋服」という小道具で見事に語っているからなのです。
 そういえば、トッド・へインズとジュリアンは「SAFE」(環境汚染によるアレルギー問題を取り扱った作品、エイズ時代のメタファーとしてずいぶん賞賛されました)でも一緒に組んでいましたね・・・。つまり、映画というものを社会問題のメタファーとしてとらえてるってことね。〜ってことは!捉える人によりけり、メロドラマとして見ても良し、社会問題と見ても良し、これぞ優れ物映画ってものです。

2003年9月

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