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こっこさん 夕凪の街桜の国

私の本箱 11

こうの史代さんにハマりました
『こっこさん』『夕凪の街』

相澤せいこ

 久々に大笑いできるマンガを発見しました。『こっこさん』(大空出版)です。赤い派手な帯(またぶっとい帯…でもこちらは表紙のデザインの一部になっていてOK)でつい目に留まり、ニワトリの目つきの悪さが面白くて気に入りました。読んでみたら大当たり♪
 小学生のやよいちゃんとニワトリのこっこさんが主人公。気のいいのんびり屋さんのやよいちゃんは、やたら迫力のあるこっこさんの飼い主なのですが…どう考えても主導権をこっこさんに握られている。こっこさんはニワトリですからしゃべりません。でも体を張って主張なさる。それが面白くて。

 これですっかりハマりまして、同じ場所に並べられていた同じ作者の本を次々読みました。そしてめぐり合ったのです!『夕凪の街 桜の国』(双葉社)は、これこそ私が探していた本でした。「ヒロシマ」をテーマにした作品です。作者はあとがきでこの作品を描くに至った経緯を素直な言葉で書いています。少し長いけど、引用します。

 「…原爆は私にとって、遠い過去の悲劇で、同時に『よその家の事情』でもありました。怖いという事だけ知っていればいい昔話で、何より踏み込んではいけない領域であるとずっと思っていました。しかし東京に来て暮らすうち、広島と長崎の人以外は原爆の惨禍について本当に知らないのだという事にも、だんだん気付いていました。…世界で唯一の被爆国と言われて平和を享受する後ろめたさは、私が広島人として感じていた不自然さより、もっと強いのではないかと思いました。遠慮している場合ではない、原爆も戦争も経験していなくても、それぞれの土地のそれぞれの時代の言葉で、平和について考え、伝えてゆかねばならない筈でした。まんがを描く手が、私のそれを教え、勇気を与えてくれました。」

 『夕凪の街』は原爆投下から10年後の広島が舞台です。家に帰る途中で、靴の底が減ると言って脱いで裸足で帰る、そんな時代のお話です。ごくごく普通の、当たり前の幸せを、恐る恐るでしか触れられなかった人達。原爆投下から何年経っても忍び寄る死の影。それらが優しいタッチの絵で綴られていきます。『桜の国』は、『夕凪の街』で生き残った人々の今に連なるお話。

 なぜ「これぞ探していた本」なのかというと、自分の子供になんとか恐怖感なしにすんなり読んでもらえる、原爆や平和について考えられる本はないかと思っていたからです。私自身『はだしのゲン』は怖くて読んだことありません。児童向けの戦争文学も持っていますが、子供はそうそう読みません。手に取りもしません。怖いの、感じるのでしょうね。わかるけど、やっぱりいつかは知って考えてほしい。扉を開くきっかけになるような本がないかと探していたのです。
 可愛らしいタッチの作風ですから、6年生のムスメは置いておいたらすぐに読みました。こちらからあれこれ感想を聞きだすようなマネはせず、質問には答え、静かに心に響いていくことを信じます。

 こうの史代さんという漫画家さんが描いています。とても優しい感じの絵です。この人の絵は帰り道に空き地からぼんやり眺める夕焼けのような、そんな昔の匂いがします。これは子供の頃にいつも感じていた空気だ…こうのさんのマンガを読んでいると、そんな気がしてなりません。とても心地いいです。とても懐かしい気持ちになります。

 このほかに、『ぴっぴら帳』(双葉社)は手乗りインコと玉村きみ子さんの、のんきで愉快な4コマ漫画。『長い道』はものすごーくいい加減なきっかけで結婚して一緒に暮らす、史上最強のおっとり者の道(みち)さんと、ええかげんが服着て歩いているような荘介さんとのおとぎ話。どれも、「こうのワールド」全開です。

2005年10月

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