vic fan club

chicago

Aizawa top

安房直子コレクション 全7巻セット

私の本箱 4

2004年のご褒美
『安房直子コレクション全7巻』

相澤せいこ

 みなさん、明けましてオメデトウゴザイマス。今頃なんですが、そしておめでとうなんて言っている場合じゃない世の中ですが、それでも日々笑顔で生き抜こうという意志を込めて。今年も元気に歩きます。

 さて、新年早々去年の話になってしまうのですが、悩んだ挙句に手に入れました、『安房直子コレクション全7巻』(偕成社)。クリスマスプレゼント特集の通販カタログに載っていて…半年以上前にこの本の存在を知り、欲しい欲しいと思っておりました。買って帰ってくるには重い→通販=配達してくれる♪→支払う時期にはボーナスがある(はず)→クリスマス…じぶんにプレゼントしてもいいのでは?→買いだ!というわけで、ジーンズ1本我慢して、「自分にご褒美」あげてしまいました。
 
 安房直子さんの童話が大好きです。彼女のお話には、子供向けの本にありがちな、何か道徳的なことを学ばせようとかいう大人の姑息がありません。そしてどこか民話のような雰囲気。それから、ジャム屋さんとか、コックさんとか、酒屋さんとか、花豆を煮たりとか、食べ物がモチーフになることが多くて、食いしん坊の私の心をそそるのです。私の言うところの「神様の手」(何かを作り出す才能)を持つ人がよく出てきますし、ふと目に映る自然の描写が素敵で、物語の中に引き込まれます。

 その中でも一番に好きなのが『天の鹿』という話です。猟師が不思議な鹿に会って、鹿の市へ連れて行かれます。その後3人の娘も順番に…鹿はそうしながら、ある出会いを待っていたのです。自分の肝を食べた娘との出会いを。小さい娘の病気を治すために、猟師は仕留めたばかりの鹿の肝を食べさせたのでした。鹿は金貨1枚で好きなものを買ってきていいと言います。美しい反物、宝石、ランプ…猟師も、2人の娘も、宝物に夢中でした。でも最後に行った末娘は違いました。鹿の市まで駆け通しだった鹿を労い、一緒に金の梨と雑炊を食べようと言うのです。(この梨と雑炊の美味しそうな事と言ったら!)そして二人で一緒に白い花を買います。末娘は天の鹿の花嫁になって、一緒に天に昇ります。それを遠くの空に見つけ、見送るしかない猟師の父親…

 闇夜を駆ける鹿。それを惑わせようとするけものたちの声。反物から零れ落ちていく花々。木の葉を金貨に変えるような燃える夕陽。どの場面をとっても、幻想的で美しくて、映像になったらさぞや素敵だろうと思いました。装丁もとてもきれいな本です。(残念ながら絶版になってしまいました。)

 天の鹿でなくとも、誰もが特別の出会いを待ち望んで生きています。なぜだか知らないけれど、ずっと前から知っているような気がしてならない人。お互いの気持ちがわかって、いたわり合える人。不思議な因縁…子どもの頃に読んだ時、大人になって読んだ時、きっと思うことがちがってくるような、深い味わいのあるお話だと思いました。

 『天の鹿』を探しましたら、5巻に載っていました!(このシリーズは全集ではなく、71のお話がセレクトされているのです。)久しぶりに読んでみました。やっぱりため息が出るような美しいお話でした。もうひとつ大好きな「あるジャム屋の話」(そういえばこれも鹿が出てきたっけ)、「ハンカチの上の花畑」もあって、なんだか再び出会えたうれしさでいっぱいになりました。知らないお話も半分くらいあって、当分楽しめそうです。

 もうひとつのお楽しみは、安房直子さんのエッセイ。『児童文芸』とか『日本児童文学』とか、専門誌にちょこちょこと書かれていた彼女のエッセイが各巻の最後に少しずつ載っています。私は初めて彼女自身の物語に触れることができました。彼女は物語を作る時、最初に1枚の絵を思い浮かべるのだと書いていました。「そしてこのイメージを、他人の目にもありありと見えるように、言葉を使って描き上げてみたいという情熱がわいてくるのです。」彼女の物語が、読んでいて美しい風景画のように思えてくるのは当然のことなのだ、と感心しました。

 そして、彼女は仕事机の傍らにいつも本を置いて、読書を息抜きにしていたそうです!お気に入りは宮沢賢治の童話集と『遠野物語』。日常からするりと異界に迷い込んでしまう語り口の原点はここにあったのだと納得。

 エッセイには彼女の製作の様子や童話を書くことへの情熱が、淡々とした柔らかな文章に綴られています。小さい頃からの夢のままに、創作童話に打ち込んだ生涯。静かに日常を送りながらも、決して消えることのなかった創作意欲。ますます彼女が好きになりました!!

2005年1月

VIC FAN CLUB  連絡先:kumi@sgy2.com