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ゴールディーのお人形

私の本箱 3

作る・働く・ヨロコビ
M・B・ゴフスタイン『ゴールディーのお人形』

相澤せいこ

 夏に突如「あみぐるみ」を作る羽目になりました。初めてだというのに5日間で仕上げなければいけない。プレッシャーで辛い日々でしたが、それでも手を動かしている時は夢中で、1本の毛糸が形になっていくのは楽しいものでした。これが物を作るヨロコビというもの?

 私は手芸やお菓子作り、お料理が得意な人を「神様の手の人」と呼んでいます。祖母がそうでした。物の無い時代に、息子のグローブまで作ったとか。私も子どもの頃、祖母の作ってくれるブラウスとジャンパースカートが大好きでよく着ていました。料理も得意で、魚をさばくことからなんでもOKでした。数年前に亡くなりましたが今も祖母の編んでくれたベストが大活躍しています。

 物を作る事って、それを使う人を幸せにするだけではなくて、作る人自身も幸せな気持ちになるみたいです。「神の手」を持たぬ私でさえ、あみぐるみに挑戦した日々は楽しかった。祖母に聞いたらきっと、生活のためにひたすら作り続けただけだったと言うでしょうけど、でも作った相手の喜ぶ顔が励みになっていたと思うのです。

 物を作る人の気持ちをストレートに描いた絵本に出会いました。『ゴールディのお人形』です。主人公のゴールディは人形作りで生計を立てています。亡くなった両親の仕事引き継いだのです。だからゴールディにとっては生きていくために必要な「労働」でもあるのですが、嫌々それをしているわけではありません。心を込めて、自分の納得のいくやり方で作ります。

 そんなものづくりへの情熱が共鳴したのか、ゴールディはある日骨董屋さんで中国製の美しいランプを見つけます。3か月分のお人形の売り上げに相当するような高価な品です。それでもゴールディが「ほしい」と思ったもの。でも友達に「どうしてそんなたいして役に立たないものを…」と指摘されて落ち込みます。

 装飾に凝ったあまり明るくないランプは実用性にとぼしいもの。お人形だって生きていくのにどうしても必要なものでもない。友達の指摘は、ゴールディ自身にも突き刺さったのでしょう。でも、ランプの作り手の「…会ったこともないあなたのために作ったのです。どこかの誰かが、きっと気に入ってくれると信じて、一生懸命作ったのです」というメッセージを受け取り、元気を取り戻します。ああそうだ、自分もそうだったって。ゴールディは安心して、自分の暮らしの幸せをかみしめます。

 作者のM・B・ゴフスタインの言葉が印象的でした。「私が本の中で表現したいと思っていることは、自分が信じるすばらしい何かを作り出すために黙々と働く人の美しさと尊さです。」とても素敵な言葉です。じーんとしてしまいました。目に見える物を作ることだけを差しているのではない気がしました。

 人はただ生きるためにだけに働くのではない。何か自分を表現するために、自分の内にあるものに突き動かされて働いていると私は思っています。自分を表現しようとしているのは芸術家だけではないのです。でなければ物作りなどの生産的な仕事以外の場合、なんでも同じはずなのに、実際は選り好みしますよね。「自分に合った仕事がしたい」というのは、自己表現の意味があるからこそだと思うのです。

 私の仕事は学校事務。生産物と言えば書類。物を調達して、支払いして、買った品物の管理をして、職員のデータ管理をして…仕事の成果が目に見える形には残りにくい仕事です。でも、私にはとても楽しい仕事です。私は、縁の下の力持ち的な仕事が好きだから。これが私の自己表現みたいです。疲れて行き詰まったり、こんな仕事むなしい…と落ち込む時もあります。でもやっぱり仕事している自分が好き。もちろん生きていてうれしくなる「喜び」はほかにもあるのだけれど、働くことを失ったら、その他の楽しみを感じる心が壊れそうな気すらします。

 人によって何が大切かはきっと違いますね。大切なのは、何が自分にとって大切なのかを知っていること。私の二人の子どもにも、職場の大勢の子どもたちにも、それを知るために一生懸命大きくなっていってほしいと願っています。明日の命すらわからないような混乱の地に住む子ども達も。自分の本当に大切なものを見つけるまで、生き抜いてほしい。

 なんだか話がどんどん広がってしまいました。『ゴールディのお人形』は『ブラックリスト』を横にした位の大きさの小さな絵本です。(もちろん、あれほど分厚くありません。)淡々とした物語ですが、なにやら心が揺さぶられ、ふつふつと静かに生きる勇気が湧いてくるようなお話です。(M・B・ゴフスタイン 作 末盛千枝子 訳 すえもりブックス 発行)

2004年12月

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