2 ことばが遅いと告げるとき
さて、診断です。
「近所の同じ歳の子たちに比べて、ことばが遅いようだけど、ほんとうだろうか」
「もう少したったら、急に話し出すかもしれない」
お母さんが、これまで悩んできたことにひとつの答えをだします。
ことばが遅いという事実を、ありのままに告げます。
次に、どうしてことばが遅いのかについて意見を述べます。これは詳しく医学的検査をしなければわからない場合もあります。臨床症状をつぶさにみて、医学的な検索が治療に結びつくと判断した時、または、家族が原因について知りたいと強く願っている時には、設備のある病院に検査を依頼します。
てんかんや甲状腺機能低下症のように、薬で治療することができる病気もあります。口蓋裂では手術をして口蓋の裂を縫い合わせます。脳性麻痺では機能訓練をして、運動発達を促し、筋肉のコントロールの仕方を覚えさせます。聴覚障害では補聴器をつけるか、高度の難聴では人工内耳の手術をするかどうか検討します。
しかし、精密に調べても原因が分らないことがよくあります。また、大部分のこどもでは、たとえ原因がわかっても、ことばに変化をもたらす医学的治療方法がないのが現状です。
もう一つ、切実な質問があります。
「そのうち、ことばは追い付くでしょうか」
今は遅れていても、ある朝、目覚めたら、急に話すようになっているのではないかしらと願っているお母さんの気持ちは、よくわかります。ことばの相談室を始めた頃、私は言語聴覚士として十年目にさしかかるところでした。お母さんにこどものことばの状態や、遅れの原因については率直に話していましたが、ことばが追い付くかどうかという質問には「まだ小さいからわからない」と答えていました。「追いつかないかもしれない」と告げた時、お母さんが傷つくのを恐れてのことでした。
他の医療機関にかかったお母さんたちの話を聞くと、医師たちは「重度」「中度」「軽度」と分類して、将来の見通しを告げています。多くの医師は、診断や見通しを本人と家族に告げるのに、ためらいは感じられません。
私は他の医師たちの、あっさり感に学ぶところがありました。お母さんたちは驚き、がっかりしてしまうけれども、それを聞いて覚悟を決めざるを得ないという点です。
私もこの十年間、ことばの相談室でたくさんのこどものことばの育ちにつきあってきました。ことばが追いつくかどうかを質問されたら、今では、私の考えをなるべく言うようにしています。
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