5 個性って?
一昨年から診療所のことばの相談室で仕事をしている言語聴覚士が集まって、「げんごろう」のビデオを隅々まで観察する作業を続けています。熱中してビデオを見続けていると、二人の秘密をのぞき見しているような後ろめたさに捉えられます。そして、ことばを獲得していく順序やスピードがあまりに似通っていることに、生命にしくまれたプログラムの存在を感じておそれを抱きます。二人はしいちゃんとなあちゃんではなく、2ヶ月違いで生まれて、発達の指標をクリアーしていく、モデル生命体に見えてしまうのでした。
その端的な証拠である、語彙数の変遷のグラフをお目にかけておきます。(表1参照)それぞれが話せることばをお母さんや家族に定期的に報告してもらって作成しました。1才6ヶ月頃から、二人のことばは同じカーブを描いて急に増えていっています。

でも、二人は明らかに違っていました。
しいちゃんは新生児の時からカメラを向けても、余り泣かない子でした。お母さんは私達に委せて、用事をされていることが多く、撮影が終わって、お母さんがこっちへ来て、しいちゃんを抱っこすると、とたんに甘えるように泣き出しました。「あら、こんなに小さいのに、頑張って私達につきあってくれていたんだな」と、驚くことが何回もありました。
なあちゃんは、先ほども述べたように、よく泣いて、いつもお母さんと一緒でした。わからないことがあると、必ず、お母さんに助けを求めました。お母さんを通じて世界とかかわっている姿が印象的でした。
遊びやことばの獲得の仕方も二人は違っていました。
しいちゃんは歩けるようになった1才過ぎから、保育園で覚えてきた歌や踊りを、毎回、披露してくれました。そして2才7ヶ月の時に「三匹のやぎのがらがらどん」の絵本のページをめくりながら、殆ど一字一句、誤りなく暗誦してくれた時には、びっくりしました。頭の中のテープレコーダーに録音された音が、スイッチを入れると、そのまま、しいちゃんの口から流れ出てきたかのようです。その後も、大人が使っているけっこう難しい文章をまるごと頭に留めておいて、ちょうどぴったりの状況で、それを使って試しながらことばの意味を捉えていっているようです。
なあちゃんは歌ったり、踊ったりが苦手でした。だいたいいつも、学生とお姉ちゃんと、お母さんが踊っていて、なあちゃんは恥ずかしそうに見ています。話をするようになると、なあちゃんは、一つ一つのことばを吟味して取り込み、それをレンガのように組み立てていきました。そして、連想を働かせて話すことが得意です。
3才を過ぎた頃、遊びの途中でお母さんの膝に寝転がって、天井の灯りを指さし「あ、ローソクだ」「カータンの誕生日」と、次々に関連したことばを思い出して話しています。なあちゃんの頭の中に、ひとつのことばが登録されると、そのまわりに関連したことばが配置されて、関連づけられているかのようです。
しいちゃんとなあちゃんに典型的に現れていることばを獲得していく二つのパターンは、どっちか一つだけということはありません。二つのやり方を適度に交じえて、こどもはことばを取り込んでいきます。
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