
ことばの相談室では、二人の中学生と動作表現を学ぶセッションを2007年秋から2009年冬に月1回計12回もちました。導入部の音楽活動、「タンバリン」の歌は、毎回楽しく行うことができましたが、同時に、リードしたST、参加者の相互のコミュニケーションが回を追うごとに徐々に深まってきました。そこで、セッションの記録を振り返り、コミュニケーションとはなにか、この活動を通して、もう一度考えました。コミュニケーションがとりにくいこども達とのかかわりのなかで、手遊びや歌とあわせて、楽器活動がもつ力はまだまだ計り知れません。こどもと一緒に楽しめることができて、簡単でも奥深い音楽活動をもっと取り入れていきたいものです。
コミュニケーションとは?
こどもは、ことばを獲得するまえの最初の一年に、まず、コミュニケーションを学習するといわれています。なんと、生まれてすぐに、あかちゃんは、周りの人々とのやりとり、交流を始めるのです。この写真は、DVD『ことばが生まれるとき』の最初のシーンです。
生後1週間のしいちゃんは、お母さんにだっこされています。お母さんに話しかけられると、身体を動かし、「あ」と発声し、応えます。視線はお母さんをとらえます。また、赤ちゃんは、お母さんの働きかけのリズムに合わせる力をもっていることも知られています。
コミュニケーションとは、このような、ことばだけではない様々な手段による、人と人との交流、分かり合い、通じ合いの過程です。
小さなこども達と…遊びの会で
人との関係が育ちにくい、人との遊びがひろがりにくい、ことばを話さないといった訴えで、相談室を訪れる母と小さなこども達がいます。遊びを通して、コミュニケーションを築こうと、保育士や音楽療法士とともに、遊びの会を開いてきました。そこでも、手遊びや歌、楽器活動は、こども達がまわりの人との関係を切り開く、ひとつの手がかりになってきました。
最初はみんなが集う場に入れない、視線をさける、介入を嫌う、動きまわって落ち着けない。そんなこどもが、次第に、「手をたたきましょう」の気にいった場面でじーっと保育士を見るようになってきます。そして、動き回っていたこどもが、寄って来ては座ることが増え、他のこども達との輪の中に自然と入るようになってくるのです。やがては、『♪足ぶみしましょう』で足をわずかに動かすといった光景が見られるようになります。見逃しそうなわずかな手足の動きですが、手遊びの世界に入りこんだ始めの一歩です。
手遊びは、歌のなかで、たとえば、こぶしを合わせる、足踏みをするといった、応答方法、活動の形が決まっています。そこで、相手に注意がむき、楽しく気持ちが高まったときには、相手と同じ行動をそのこどもなりにとることで、通じ合いの一歩をふみだせるようです。
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ある日の遊びの会の集いから。「ととけっこうよがあけた」の歌にあわせて被せた布をとって、現れたにわとりのこっこと「おはよう」の挨拶。 |
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子ぞうのペープサートを走らせたり、ジャンプさせたり、眠らせたり。自分の身体で応答する手遊びに比べて、ペープサートや布を持てるようになると、早い時期から参加できます。 |
中学生と、動作表現を学ぶ会で
今回参加してくれた二人の中学生は、ことばを理解しますが、話しません。うなずきや首振り、バイバイで手をふるなどいくつかの動作表現を使って、要求などを表現していました。そこで、手話ができるSTが相談室に加わったことをきっかけに、生活の中で使える動作表現を増やすことを目指し、このセッションをもちました。「タンバリン」の歌は、導入の音楽活動のひとつとして、このセッションに協力してくれた音楽療法士から紹介され、その指導の下、先のSTがリードして二人の中学生とともに、歌って演奏しました。
「タンバリン」の歌
ピアノが流れ、リーダーがタンバリンをもって、リズムをとって、タンバリンを前にさしだすと、差し出された人は思い思いの方法で、タンバリンを打ち返し、応答します。ちなみに、〜さんが以降は、ソロパートで一層自由にタンバリンを演奏できる見せ場です。
「タンバリン」の歌をリードしたSTは二人とよりスムースに通じ合えると感じるようになりました。どんな事情が変わったのでしょうか。

「タンバリン」をリードして
12回の活動を通じて参加者(Sちゃん、Nくん)にいくつかの変化がみられました。
まず参加した二人の視線に関する変化がみられました。始まった頃に比べてSTと視線の合う(アイコンタクト)回数が増え、呼びかけに対する反応が早くなりました。回数だけではなく視線の合う時間についても増えました。最初の頃はSTの方を見ていなかったり、見ていてもぼんやりと眺めているようなことが多かったのですが、回も半分を過ぎた頃からはじっと見つめたり、見ることで気持ち(○○をやりたい、○○が欲しい等)を伝えようとする様子が増えました。相手をじっと見続けることで状況や内容の把握や次への行動への切り替えもスムーズになったように感じられました。
やりとりの増加もみられました。STからの働きかけに対しての反応が増えるのとともに自発的に関わってくることが増えてきました。そして単に指示に応えるということから指示に応えながら相手に希望等を伝えその反応を待つというようにやりとりが何回も続いていく場面も回を重ねるにつれて増えてきました。後半の9回目にはタンバリンのたたき方についてSちゃんとのやりとりに次のような場面が見られました。
ST:Sちゃんにタンバリンを差し出す。
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Sちゃん:たたく。掌を上に向けてひざの上にのせる。
↓
ST:掌にタンバリンをあてる。
↓
Sちゃん:STをみて笑顔を示す。掌を上に向けてひざの上にのせる。
↓
ST:掌にタンバリンをあてる。
↓
Sちゃん:たたく。
はじめの頃は差し出されたタンバリンをそのままたたいていましたが、この時にはたたきたい方法(掌を上に向けてたたく)を伝えてくれました。このような場面は後半に多くみられました。
STとの関わりだけではなく、参加者同士との関わりにおいても変化が見られました。終盤の11回目にSちゃんとNくんとの間に次のような場面が見られました。これは開始前にNくんがその日に使用する予定のコミュニケーションノートを持ってきた場面です。
ST:Nくんが持ってきたコミュニケーションノートを手にとる。
↓
Nくん:STをみる。ノートを取り返す。ノートを手に取り、Sちゃんの方を向く。
↓
Sちゃん:Nくんをみて微笑む。
↓
Nくん:Sちゃんをみて微笑む。
コミュニケーションノートを自ら持ってきてSTに見せてくれました。と同時にSちゃんにも見せてあげました。その時、二人で目を合わせて微笑んでいました。場面を共有する様子がみられました。
このような変化が見られた要因を考えてみますと、曲に合わせてタンバリンをたたくという決まった形式であった為、毎回実施することで関わり方がより意識しやすかったのではないかと思われます。また、その際に単調な反応ではなく、楽器のたたき方(強くたたく、繰り返したたく等)のバリエーションが拡がっていくことで自発的な関わりの楽しさがより意識できたのではないかと思います。軽くポンポンとたたいたり、激しくたたいたりすることで気持ちを表現したり、共有したりすることも拡がったように思われます。表出のスキルを向上させたり、関わりをより自発的に行うように促す際に楽器の使用、音楽活動の導入が有効なんだと感じました。
音楽療法士に聞く
タンバリンってどんな楽器?
まず、たたく面が広いこと、直接手の平でたたくのでしっかりとした感触があること、また道具を持たなくてよいのでとっかかりは楽な楽器といえます。音色はにぎやかできらいな人があまりいません。まわりのシャラシャラも手応えがあります。今回のように誰かが差し出してたたくときは、持っている人にもしっかりとフィードバックがあります。
それから、片手で、両手で、交互に、色々な位置でたたけるといった、演奏方法も自由度が高い楽器です。
タンバリンの歌はどんな歌?
大人の音楽のグループでは、なだらかに弧をえがいて着席してもらい、MTが弧の中心に立ち各々の参加者にかかわります。リードとピアノは、その人の状況や動作にあわせて、さあさ座ってね〜などと、歌詞も変えたりして、どんどんバリエーションを広げていきます。参加者が気持ちをのせて表現できるように、動きにあわせて、創る力がすべてです。また、この歌のソロのところでは、踊りだす人がいたり、MTもタンバリンをもって裏のリズムで伴奏したり、となりの人と合奏になったりします。一人一人が自からアクションを発してくれると、とてもうれしくなります。
ピアノの伴奏について
一番多いのは、その人に合わせる、共感してますよという伴奏、もうひとつは、もうちょっとこうしてみませんかと、提案したり誘ったりする伴奏、そしてその組み合わせです。
例えば、N君が、ダイナミックなリズムの取り方をしているときに、それをもっとやってほしいときは、ブーンチャンブーンチャンと低音を使ってそれでいいんだよ〜というような伴奏をしてみます。
また、速くたたたと、叩いているときには、一緒に速くするときと、そうじゃないふうにしませんかと、遅くしてみることもあります。
Sちゃんとは、一緒にリズムを決めることもできました。ちょっと速くしてこのテンポでどうですか?と出すと、いやいやちがうちがう、もっとこんなふうにと、沢山やりとりができました。
家庭へのアドバイスを
まだ、こどもが小さく、あまり振り向いてくれなかった時代は、私自身も、毎日歌い続けていました。ことばでよびかけて来なくても、♪おいで〜♪と歌うと来たりしましたから。おしっこをしたあとは、♪すっきり、にこにこうれしいね♪と歌うと、「すっきり!」と返してくれたり。おしっこの後、歌わないと、どうした?という表情をしました。歌にはパワーがあります。とにかくいいですよ!
ことばの相談室(烏野、長山、星、森田)
協力:角間 果(MT)