こども診療所だより 復刊第22号2007年12月24日発行

診察室から こどもに対するリタリンの処方について

梅村 浄

*豚インフルエンザとは?

 これまで注目されていた鳥インフルエンザとは違う、聞き慣れない豚インフルエンザの流行開始で、まず、驚きました。私はインフルエンザ研究者交流会のメーリングリストに加入しているのですが、豚インフルエンザウィルスのDNA構成がわかったと知らせをもらいました。1918年のスペイン風邪ウィルスは全ての遺伝子が鳥から来たとされていますが、古い時代なのではっきりしたことはわかりません。今回の豚インフルエンザウィルスは、ユーラシア豚型と北米豚型が入り混じってできた全ての遺伝子が豚由来の新型インフルエンザウィルス(H1N1)だということです。
 鳥と豚と人間の間を行き来しながら遺伝子変異をとげて、生き延びていくインフルエンザの歴史が垣間見えました。


*どれくらい恐いのか?致死率

 新しく発生した感染症ですから、どれくらい重症化するのかが問題となります。
 鳥インフルエンザは6年前に人間への感染が報告されています。本年7月1日までに世界で436人が罹り、262人が死亡しています。致死率は60%です。人から人への感染も起こしていますが、まだ、地域内の流行がみられる程度ではありません。
 豚インフルエンザは、最初に発生したメキシコでは、7月6日現在で10262人が罹り119人が死亡しています。致死率は1.16 %です。その後に報告されたアメリカでは、33902人が罹患し死亡者は170人、致死率は0.5%です。これはあくまでもウィルス検査で豚インフルエンザ(H1N1)の感染が確定された人数内での数値です。実際にはもっと多くの人が罹っている筈なので、致死率は下がります。鳥インフルエンザに比べると、はるかに軽いと言えます。
 20世紀に流行した新型インフルエンザの致死率は以下のようです。また、現在流行している季節性インフルエンザの致死率は0.1%です。

20世紀に発生したインフルエンザ致死率の比較

発生年 名称 死者数 致死率
1918年 スペイン風邪 4000万人 2.0%
1957年 アジア風邪 200万人 0.5%
1968年 香港風邪 100万人 0.5%

*誰が重症化しやすいか?

 致死率の高いメキシコの報告を探しているのですが、見つからず、アメリカのカリフォルニア州で入院した患者のレポートがありました。5月17日現在で553人(確定例+疑いが濃厚な例)のうち30人が入院しました。年齢は生後27日から89歳(平均27.5歳)でした。
 入院した人の64%が基礎疾患を持っていました。喘息や肺気腫、先天性心臓病、糖尿病、肥満などです。妊婦も重症化して入院しています。入院時の症状では肺炎と脱水が多く見られました。5人の妊婦のうち2人に流産、早期破水が起りました。治療として15人にはタミフルが使用されました。レポート時点での死亡者はありません。基礎疾患を持たない患者は平均2.5日の入院で退院しました。少数がタミフルの投与を受けただけです。

 さて、日本では7月23日現在厚生労働省が確認している患者数は4689人です。検疫で発見されたのはこのうち29人です。死亡者はありません。
 5月16日に神戸市で渡航歴のない患者が日本で初めて発生し、神戸市保健所が報告を出しています。49人の患者は5〜60歳で(平均17歳)全員入院させられました。38℃以上の高熱と咳、全身倦怠感、喉の痛みなど、季節性インフルエンザと同じ症状でした。48人が抗インフルエンザ薬であるタミフルかリレンザの投薬をされていました。重症化した例はなく、1〜8日(平均3日)で退院しました。アメリカと比べて、年齢が若く基礎疾患をもっている者は含まれず、重症化しなかったと考えられます。世界的に見ても乳幼児の罹患は限られており、どんな症状がでるかまだわかりません。

*世界的大流行 フェーズ6への対応

 WHOは6月11日に警戒度を、世界的大流行を意味するフェーズ6に引き上げました。病原性の強さは3段階中2の中程度としました。7月6日現在で世界での発生数は94512人です。現在冬を迎えた南半球での流行が広がっています。
 日本では、この冬の流行が予想されます。1957年のアジア風邪の調査によると流行が始まってから、わずか半年間に56%が発病しています。子どもでは80〜90%が罹りました。豚インフルエンザに対しても、多くの人(註)は抗体を持っていないのですから、半年で50%、数年以内に全員が罹り、遺伝子変異を繰り返しながら季節性インフルエンザとして流行し続けます。豚インフルエンザと共存していく覚悟を決める時です。
 人ごみを避け、帰宅した時にはしっかり手洗いすることが必要です。マスク着用の感染予防効果については、議論のあるところです。基礎疾患をもっている人たちや妊婦、乳幼児が罹ったら重症化を見極めて、早めに治療をすることが一番の対策です。
 厚生労働省は、ワクチン作りを始め、10月接種開始を目処に2500万人分を確保すると発表しました。予防効果と、副作用はどうか、まず確かめなくてはなりません。誰に優先的にうつのか、費用負担等はこれから検討に入ります。薬のタミフルとリレンザの効果については、重症化を防げるのか、全員が内服する必要があるかどうか充分なデーターはありません。タミフル内服で十代の子ども達が飛び降りを含む異常行動をおこした副作用について、厚生労働省研究班は「因果関係は否定できず、十代への使用再開は難しい」との結論を出しました。(2009.7.23)

(註:1957年以前生まれは罹り難いという統計があり、関連抗体を持っていると推測されている)

※豚インフルエンザの具体策については次号で述べます。


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