こども診療所だより 復刊第22号2004年12月24日発行

診察室から いろいろな症状のもつ意味

山田 真

 今回は「かぜと薬」をテーマにしてお話します。
「かぜ」って簡単に云ってしまいましたが、「かぜ」の定義はなかなかむつかしいのです。例えばはな水が二週間も続いてくしゃみもよく出るといった症状はアレルギー性鼻炎でかぜではないのですが、「長いことかぜをひいています」などと表現されます。その辺のことを詳しく話しはじめるときりがないので「ウイルスが原因で、節々の痛み、頭痛、のどの痛み、発熱、せき、はな、くしゃみ、発疹などのうちいくつかがあるもの」をかぜということにします。そうすると単なるかぜから、新型インフルエンザまで全部がかぜということになります。

 ウイルスで起こるかぜには抗生物質は効きません。抗生物質が効かないとなると絶望的な感じがしますが、幸いなことにウイルスの病気のほとんどが自然になおってくれます。
 水ぼうそうもおたふくかぜも突発性発疹もみなかぜの一つといっていいのですが、自然になおってしまうことはみなさんもご存知ですね。新型インフルエンザだって自然になおってしまうものだったようです。ただウイルスのかぜでも栄養状態が極端に悪いとか免疫力が低下している状態だと生命に関わることはあります。
 でも大半のウイルス性のかぜは自然になおるということを確認しておきましょう。自然になおるのだったら薬はいらないということになりそうですが、そうとばかりは云えません。
 例えば片頭痛という頭痛がありますね.この頭痛はある日突然起こり数時間から三日間くらい続いて自然になおります。「自然になおるのだからなにもしないで待っていればいいんじゃないの」というのは片頭痛を経験したことのない人だから云えることです。いえ、わたし自身、片頭痛を経験したことはないのですが、患者さんを見ているととてもつらそうで「三日もすればなおるから薬はのまないでからだを休めていなさいね」などとは云えません。片頭痛の間は仕事が全くできないという人は迷わずのんでいいのです。

 実際世の中に薬は沢山ありますが、病気をなおす働きを持つ薬は少なく、たいていは病気の進行を遅らせたり病気によって起こる症状をやわらげたりする薬です。症状をやわらげることのできる薬はなおす薬ではありませんが、十分存在価値があります。ぼくたちはできることなら苦痛のない快適な人生を送りたいと思っているわけで、苦痛をとったり快適になれたりする薬があればその助けを借りていいのです。しかしどんな薬も多かれ少なかれ副作用がありますから、副作用というマイナスよりも苦痛を軽減するというプラスの方が大きい時にだけ薬をのむようにするべきです。大人の場合は、苦痛がある程度強くならないと病院には行かないのが普通ですね。(もちろん、病院好きでちょっとした症状でも病院へ行ってしまう大人もいますが。)多少のはなやせき、少々の発熱や頭痛程度ならたいていの大人は我慢して病院へは行かずその結果何もしないで自然になおってしまうことが多いのです。
 ところが子どもの場合、子ども本人はつらくもなんともないのに、まわりの大人がちょっとしたはな水やせきを心配して病院に連れてくるというケースが多いのです。こんな場合、本当は薬がいらないのです。

 ではかぜの場合、どんな時にどんな薬を使えばよいか、考えてみましょう。
 かぜの症状は頭痛、のどの痛み、節々の痛み、発熱、せき、はな等ですから、痛みをやわらげる薬、熱を下げる薬、せきやはなをやわらげる薬といったものについて考えることになります。
 まず、痛みをおさえる作用と熱を下げる作用は一つの薬が併せ持っているということを知っておきましょう。例えばアスピリンという薬は強力な鎮痛剤であると同時に強力な解熱(げねつ)剤でもあります。それで解熱鎮痛剤と呼ばれます。「頭が痛いけれど熱はないという時にアスピリンをのむと熱が下がりすぎるんじゃないか」と心配する人もいると思います。でも幸いなことに、平熱の人の熱を下げすぎるということはなく、平熱の人に対しては痛みをおさえる働きだけになります。
 解熱鎮痛剤の中には強力なものから効きめのおだやかなものまでいろいろあります。熱を急に下げるもの、おだやかに下げるもの、鎮痛効果の強いもの、弱いものといろいろありますが特に子どものばあい、なるべくおだやかな効きめのものを使うべきです。
 アスピリンはかつて「強力で副作用の少ない解熱鎮痛薬」と思われていましたが、インフルエンザや水ぼうそうの子どもに使うとライ症候群という重い脳症を起こすことがあるということが分かって、子どもには使われなくなりました。また、ボルタレン、ポンタール、インダシンなどという強力な解熱鎮痛剤がありますが、梅村こども診療所では子どもに使ったことはありません。
 この数年これらの強力な解熱鎮痛剤をインフルエンザに使うと脳症を起こすことがあると云われて使われなくなってきましたが、その結果インフルエンザ脳症の発生は激減しています。
 今のところ、子どもに使って安全な解熱鎮痛剤はアセトアミノフェンという薬だけと云われます。アセトアミノフェンの商品名はナパ、カロナール、アンヒバ坐薬、アルピニー坐薬などで、高熱が出てつらいという時は使ってもいいでしょう。しかし、熱というものはウイルスや細菌をやっつけるために高くなるわけですから、本当は無理に下げない方がいいのです。
 なお、アセトアミノフェンは熱を下げる力はわりあい強いのですが、痛みをおさえる力はあまり強くありません。子どもでも急性中耳炎やおたふくかぜなどの時かなり痛みが強いことがありますが、アセトアミノフェン以外に子どもに使える鎮痛剤がないので、子どもには痛みを我慢してもらうことにしましょう。

 はな水やせきのお薬については次回におはなしすることにしますが、とりあえず「軽いはな水やせきだけが続いているときは薬はあんまりのまないほうがいいし、のむ必要もない」ということだけ云っておきます。


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