こども診療所だより 復刊第7号2001年8月10日発行


森田裕子・山田順子

 前号では、検査の体験談をうけて、疑問点などについて梅村先生の話をききました。今回は、これを踏まえて、梅村先生を囲んで3人の参加者に自由に話していただきました。診断と障害の告知、心理検査にはじまり、障害と私達の意識、社会のあり方へと話はさらに広がりました。

これまでの感想から…

桃さん  検査のリスク以前に、医者と親の信頼関係というものがやはりありますよね。いろんな先生と会うなかで、どの先生と信頼関係をむすぶことができるかが私にとっては一番大きな問題です。

林檎さん  「検査をしない」という医者の選択については、「そうですか」という気持ちでした。(前号でもお話ししたように)ただ「この子は(検査を)やっても無駄だよ」ということばがひっかかってしまって…。
 その大きな病院では、祖父母の年齢まで詳しく家族的な背景などについて書かされて、診察室に入って、こどもの状態については5分ときいてもらえず、その後に(自閉症で)やれ低機能だとか、たてつづけにいわれました。たとえ本当で間違ってなくても、親にとってどうかなと。

診断と告知をめぐって…

桃さん  病院に行ってない段階の人は、検査をされて見つけられるのが嫌ですよね。「ただちょっと遅れているだけ」と思いたくって…それで結論を出すのをだんだんさき延ばしにしていってしまうんですよね。

梅村さん  癌の告知をするかどうか、日本では現在でも意見が分かれています。段々に、告知をする方向に行っていますが、どんな時期にどんな形で告知するのかは慎重に考えるべきとされています。障害の告知も同じ事なんですが、安易に診断を告げればよしとする医療者が多すぎるということでしょうか。
 お母さん達は医者に「この子は大丈夫」と言って欲しくて来られている面もあると思うんです。告知をするには早いかなと思うと「まだ小さいから将来のことはわかりません」と答えて、診断と今後の見通しをはっきり言わない場合もあります。「小さいうちの発達はわからないこと」というのを、頼りにされますから。
 でも「自閉症かどうか、はっきりいってください」と聞かれた時に、私も「自閉症です」と答えますよね。御自分一人で悩んできて、私の一言で納得されて、その後、前向きに歩んで行かれる人もあります。でも、お母さんばかりでなく、お父さん、お祖父さん、お祖母さんも混乱されてしまって、もう少し時間をかけた方が良かったと、反省するときがあります。

桃さん  私は2回ほど母子入院したんですが、やはり少しでも安心したいのか、いろんな所を渡り歩いている人がいらっしゃいました。でも母子入院すると、そういうことは意味がないということがわかってしまうんですよね。いろんなカリキュラムを通して、医者、PT、OT、保母さんなどから、言い方がどうであれ「現実にはこうだ」と教えられる。親達とも朝晩一緒なので、教え合ったり…そういう母親教育みたいな場も、ある意味大事だなと思いますね。

林檎さん  私は診断を受ける一年前から、自分では「自閉ではないか」と思って、本を読んだりしていました。ですから先生に「自閉症ですか」と尋ねた際に、「そうでしょうね」と言われてよかったと思っています。でも、そう思っていないお母さんが、そこまでいっぺんに言われたら─と思います。人によるでしょうね。

梅村さん  そうですね。ですから「聞かれたら答える」という感じでしょうね。でも、大体お母さん方は聞いてこられます。

林檎さん  その前日はご飯も食べられないような勢いできているというのは、あるかもしれません。「とうとう言われちゃうな」という感じできているところもあるので。

梅村さん  一年も前から疑いをもって色々学んでいる人と「ちょっとよくわからないけど」と来られた方では、受け取り方がちがいますね。それにもしも、私の診断が受け入れられない場合には「この先生は何をいっているのかしら」と、ほかのところを訪ねられることもあるかもしれません。
 その後もことばの相談室に定期的に来て頂いて、私達と一緒に、こどものことばを育てていかれるうちに、自然に「この子はもしかしたら、同年齢のこども達に追い付かないかもしれない。それでも他の子と同じように、こども達の中で一緒に育てていこう」と気づいて下さることが多いです。もちろん、私達もお母さん達の質問に答え、その都度、話し合うようにしていますから。

林檎さん  診断名や予後をいわれることよりも、その言われ方、例えば「しゃべれるようになりますか」と尋ねたときに、「わかりません」と言われたら、その時はショックでも月日が経つにつれ、「しゃべれるようになるかわからないんだな、確かにな」と、親の頭の中で消化できるけど、「将来は作業所、お給料をもらえるような仕事はできないのよ」などと言われることは、一見わかりやすい説明のようでも、後々にはものすごい傷になって、消化できないものとなって残っていく気がします。

心理検査をめぐって…

 医学的検査以上に、心理検査、知能テストの場合では、結果も数値的に出され、今の社会の枠組み、例えば、同年令の子どもの能力に対してどの辺に位置するかが示されたり、進路や年金受給などの資料になったりと、社会的な意味付けもされます。そのあたりどうですか。

檸檬さん  (学校でいろいろと言われて)自分達のこどものことは、他のこどもをケガさせているわけでもないのに、なぜこんなに迷惑がられるんだろうと悩んでいました。そんなとき、現実に知能テストの結果をみせられて、平均的な普通学級のお子さんはこうでとことこまかに解説されると、じゃあやっぱりいたらいけない子なのかなあと思ってしまいます。気持ちに、ダメージをうけなければいいんですが。こういうことがなければ、最初から、どんなことがあっても、この子はこの子だから、このままみんなと一緒にというふうに思えたと思うんですが。
 やたら、知能テストの結果に親がとらわれすぎたために、そこがものすごくぐらついたというか。あの時はショックでしたけど、林檎さんのように、本をいろいろ読んだ中で、イギリスの小児科の先生が書かれた本が私には説得力がありました。多分だれもが神に選ばれてこの世に存在するというキリスト教の考え方がベースにあるせいだと思うんですが。

 私達STも言語力の評価などにあたって、知能テストを使っています。言語力の把握や、例えば、語彙力、構文力など言語の各側面の力のばらつきなどを評価するときの、一つの材料になっています。また、研究や臨床の場において、一人の子どもの情報をやりとりするとき、共通の枠組みになっています。

檸檬さん  どうしてあんなにショックをうけたかと、考えて見るんですが、小さい頃からこの世の中生きていくには、偏差値が(重要)などという刷り込みがあったからではないかと思います。そういう子どもをもったら、恥ずかしいとか、世の中もう仕事にもつけない、とかもうどうしようもないような価値観で、自分の中が固められていたから、そうなったということでしょうか。私のまわりの友達なんかは、結構そこをのりこえて、あははと笑い合える感じにはなれてるんですが。
 そして診断、検査してくれる教育研究機関といったところも、そういう価値観だから、「大変ですね」みたいな言われ方をするんですね。
 やはり、小学校、中学校、高校のあり方が変わらないと。小学校が受け入れて、いっしょに伸ばしていきましょうといえば、別に大きなダメージをうけることはないし…だから小中高の教育の根本というか、そこには政治や経済や国の行き先とか関わってくるけど、根本が変わらないとという気がしています。

障害と私達の意識、そして社会のあり方をめぐって…

梅村さん  自分がダメージをうけるということは、同じ価値観をもっているということですよね。障害を持っている子どもをずーっと育てていっていると、なかなか良い人生だなと思えるんですけどね。
 それに、育ち方というのがあるんじゃないかな。私は、15年間重症心身障害児施設にいましたが、ある職員のこどもは、そこでしばらく暮らしてたのね。そのこどもの価値観は、私たちとは違うと思いますよ。林檎さん自身も、御自分が小さい頃、身近にハンディキャップのこもどがいて育って来ていたら、それほどショックをうけずにすんだかもしれませんね。

桃さん  このあいだ息子を車にのせていたら、たまたま下校してきた小学校低学年の子20人ぐらいが車を囲んで、「あれが障害者っていうんだよ」「動いたよ」などと言って見ていました。この町には引っ越してきたばかりなんですが、みんな障害者をみかけたことがないんですね。それで帰って5年生の下の子に、「お兄ちゃんを学校につれていって体験させようかな」というと、「そうすればいいんじゃない」と言うんですよ。私がこどものときは、きっとそういうふうには思わなかったでしょうね。そばにいると、この人いけない人というようには頭にないから、そういう言葉がすらっとでるんだなあと思いました。それをまた中学生の三男にも話したら、「中学校にも連れていくといいよなあ」と言っているから、すごいよなあと…いっしょに育つとちがいますよ。
 最近、公的な介護制度の申請が通って、介護員を入れた生活をはじめています。自立センター(当事者団体)から派遣の介助者に加えて、中学校時代の同級生やその友人などが交代で介助に入って、ショッピングや公園などあちこち連れて行ってもらっています。いろんな人がうちに入ってくるので大変だと思うこともありますが、同世代の人と接するのが、息子にはとても楽しいようなので、このようなふれあいの機会をどんどん広げて行けたらと思っています。

2号にわたり、参加してくださった4名の皆さんに、深謝いたします。
なお、文中にふれませんでしたが、相談室では、聴力検査を受けることができます。きこえに心配がある方は予約してご相談ください。


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