最終更新日:2001.8.30

抗ウィルス薬を安易に使ってよいのか

 今年もインフルエンザが流行する季節がやってきました。この季節はいろんな問い合わせがされるので、ちょっと憂うつです。
 「インフルエンザの予防接種はしていますか」「インフルエンザという診断書を書いてもらえますか」などなど。
 世間ではあたかも予防接種インフルエンザが完全に予防できるかのような宣伝がされていますし、「特効薬」も出回りはじめています。
 しかしぼくはこうした「最新の医療」に対して疑問があって簡単に手を出したくないのです。

 それは水ぼうそうについても同じです。
 水ぼうそうには最近、ゾビラックスという内服薬がよく使われています。かなり多くのお医者さんが水ぼうそうの患者さんに片っぱしから使っているようです。
 けれどもこの薬は本来「水ぼうそうにかかると重症になって生命の危険さえあるような人」に対して使われるように開発されたものです。白血病のような血液疾患の場合、あるいは副腎皮質ホルモンのような強力な薬を大量に毎日のまなければならないような場合、水ぼうそうは重症になることがあるのでゾビラックスを使うべきです。また重症のアトピー性皮膚炎の子どもが水ぼうそうにかかった場合、成人が水ぼうそうにかかった場合も重症になることが多いのでゾビラックスを使う方がよいでしょう。
 しかし健康な子どもが水ぼうそうにかかった場合にも、ゾビラックスを使うほうがよいのでしょうか。

 アメリカではレッド・ブックと呼ばれる本が発行されていて、それに「子どもがかかった各種感染症に対してどのような治療をすべきか」という指針が書かれており、ほとんどの小児科医がこの指針に沿って治療をしていると云われます。(残念ながら日本にはこのような本がなく、そのため小児科医それぞれが自分の好きな治療をしていて足並みがそろいません。)
 このレッド・ブックには次のように書かれています。
 「健康な子どもが水ぼうそうに感染した場合、発疹が出はじめてから24時間以内にゾビラックスをのめば、体温の最高値と持続期間をいくらか減少させ発疹の数と出ている期間をいくらか減少させる。しかし、ゾビラックスを健康な子どもの水ぼうそうに使うことはすすめられない。
 それはゾビラックスの効果がわずかであること、ゾビラックスが高価であること、発病24時間以内に治療を始めるのがむつかしいこと、合併症を起こすおそれのない多数の水ぼうそうの子どもにゾビラックスを使うことによって予期せぬ危険が起こる可能性があることなどの理由による。」

 この最後に書かれている「予期せぬ危険が起こる可能性」については特に注意しておきたいと思います。予期せぬ危険の一つは、ゾビラックスを多用することによってゾビラックスが効かない耐性ウイルスが出現することです。そのようなウイルスは強力で危険なウイルスである可能性があります。日本で今ゾビラックスが多用されている状況に、「耐性ウイルスが生じる危険性がある」と警告している日本の学者もいますが、その声は開業小児科医の耳にはあまり届いていないようで、平気でゾビラックスが使われています。でもぼくはゾビラックスを簡単に使う気になれないのです。

 インフルエンザについても最新の医療は「まず簡単なインフルエンザを診断するキットを使って20分くらいでインフルエンザか他のかぜかを区別する。インフルエンザとわかったらシンメトレル、リレンザなどの抗インフルエンザウイルス薬を使う」というものになっています。
 しかしこれらの薬を使うとやはり耐性ウイルスが生じやすいことがわかっています。「シンメトレルを3日間使うと熱が下がってくるが、そこで耐性ウイルスが現われてまた熱が上がるという例が少なくない」という報告ももう出てきています。
 抗ウイルス薬の安易な使用は危険なのではないでしょうか。

 インフルエンザワクチンについては、子どもに対する集団接種が廃止されたのはまだ数年前(1994年)のことです。それは子どもに集団接種してもその効果がはっきりしないという理由からでした。そしてその事実は今も変わっていません。

 アメリカでインフルエンザワクチンをうつべきだとしているのは、次のような人たちです。
 (1)65歳以上の高齢者
 (2)老人ホームまたは慢性疾患療養施設の居住者
 (3)慢性肺疾患、心疾患
 (4)長期アスピリン服用中の6か月〜18歳の患者
 (5)妊婦(インフルエンザ流行期が妊娠4か月目以降にあたるもの)

 ここでは乳幼児は予防接種をすべき対象になっていませんが、日本の学会の中には「日本はインフルエンザ脳炎・脳症が多いから乳幼児にも接種すべきだ」と云っている人がいます。
 しかしインフルエンザワクチンがインフルエンザ脳炎・脳症を予防するという証拠は今のところ証明されていません。

 一方、日本でインフルエンザ脳炎・脳症が多いのはポンタール、インダシンといった強力な解熱剤が多用されるためではないかという強い疑いがあり、まずこれらの薬を用いないようにすることが第一です。しかし厚生省はこれらの薬を使わないようにという指示をいまだにしていません。(梅村こども診療所ではこれらの薬を使っていません。)
 というわけで「新しい医療」に納得が行かないので、水ぼうそうにもインフルエンザにも昔ながらの医療をしているのですが、やはり「梅村さんのところでは古くさい医療しかしていない」と云われてしまうのでしょうか。

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