最終更新日:2001.8.30

子どもの発熱に関する二つの論文から

 アメリカから「小児科学年鑑 2000年版」という本が送られてきました。ぼくは英会話はまるっきりダメなのに、英語の専門書は読みこなせるという日本の英語教育のゆがみを体現したような人間です。ですからこの年鑑もスラスラと読みました。この本には1999年度に世界中の医学雑誌などの発表された小児科関係の興味深い論文が要約して載せられています。読んでいるとかなり面白い論文が出てくるのですが、その一つにこんなものがありました。

 題は「からだにさわって子どもの発熱を診断できるか」というものです。
 「子どもの発熱は母親が子どものからだにさわって気づかれることが多い。しかし、このさわることによる“体温測定”は信頼できるのだろうか」というのが、イギリス、ケンブリッジ大学のホワイブリューさんたちが抱いた疑問でした。ホワイブリューさんたちは数人の母親と数人の医学生に子どものからだにさわってもらう実験をしました。子どもは190人集められましたが、その年齢は生後1ヵ月から16才までとはば広いものでした。
 さわったのは子どものおなか、ひたい、そして首で母親、医学生がそれぞれさわってみたあと、熱があるかないかを予想しました。
 その結果、母親も医学生も発熱している子どもをほとんど見逃さないことが分かりました。(子どものうち27%が38度以上の熱を出していました)実際には熱を出していない子どもを熱があると判断してしまう誤診はあったものの、熱のある子どもを熱がないと判断してしまう誤診はほとんどなかったのです。
 手でさわって発熱の有無を調べるという方法は大変有効であることが実証されたわけです。

 この本には他にもう一本、ぼくの興味をひく論文がありました。この論文は生後29日から60日までの赤ちゃんの発熱に関するものです。

 子どもというものはとても簡単に高熱を出します。大人の場合39度以上の熱が出るようなことはめったにありませんが、それは体温調節中枢といわれる場所が脳の中にあって、そこが高熱を出さないようにコントロールしているからです。しかし幼い子どもの場合その中枢がまだ成熟していないので簡単に高熱になってしまいます。39度、40度なんて熱は簡単に出ますが、こんな高熱になっても大抵はただのかぜのような軽い病気が原因であることが多いので心配する必要はないのです。

 しかし生後3ヵ月未満の赤ちゃんではちょっと事情が違います。この月令の赤ちゃんはめったに熱を出しません。そこで38度以上の高熱を出したら重大な病気かもしれないと考えて検査などをしたほうがよいといわれているのです。
 そこでペンシルベニア大学のベーカーさんたちは生後29日から生後60日までの赤ちゃんが38度以上の熱を出したケース422例についてどんな病気に依る発熱だったのかを調べ報告しました。
 422例のうち54%にあたる228例はウイルスによる「ただのかぜ」でした。次に、ウイルスによる胃腸炎が69例ありました。ウイルスによるかぜと胃腸炎を合わせると297例となり全体の70%を占めます。

 つまり、生後2ヵ月以前の小さな赤ちゃんでも、発熱の原因の7割はウイルス性のかぜ、胃腸炎で、これは自然に治ってしまうものなのです。
 残り3割のうちには無菌性髄膜炎50例、重大な細菌性の病気が43例含まれています。細菌性の病気のうち最も多いのは尿路感染症でした。

 この論文をまとめてみますと「生後2ヵ月以前の赤ちゃんが熱を出した場合でも、軽い病気が圧倒的に多いからあまり心配しなくてよい。しかし無菌性髄膜炎などが起っている率も多いので慎重に対処すべきだ」ということになるでしょうか。

 ぼくは子どもの病気についてあちこちで話をしたり、雑誌や新聞に書きちらしたりしてきましたが、一番力を入れて訴えてきたのは「子どもの熱をやたらにこわがらないこと。強い解熱剤を使って急いで下げようとすると子どものからだに悪影響を与える。一旦高い熱が出たら3日間くらいは続くものと思ってほしい。3日間待っていれば大抵は下がる。」ということでした。ですから今日発熱について書くのは少しくどい感じもしたのですが、ちょっと面白い論文が目に入ったのでつい紹介してしまいました。あしからず。

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