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推薦図書 10

「永遠の生か死か」すでに始まっている
遺体冷凍保存を巡るミステリー。

『凍えるタナトス』

柄刀 一著   文芸春秋刊

  今回ご紹介するのは、新作のミステリーである。
 従来、ミステリーには疎く、めったに読まない。だから、ミステリーフアンの方のお気に召すかどうかは分からない。夏の終わりに本屋の新刊コーナーで、衝動買いした『死』を巡る小説3つの中の1つである。
 かなり分厚い本である。そしてこの作家に関しても予備知識はない。ただ、本の帯の「クライオニクス」という言葉に引かれたのである。
 『クライオニクス』その言葉に出会ったのは、今から4年位前になる。「アメリカの葬儀事情」を調べているときのことだ。「遺体の冷凍保存」を意味するその言葉は、当時まだ一般的ではなく、ほとんどの人は知らなかった。私にしても、まさか、そんな夢のようなことを、実際研究し、実行している人がいるなんて、ほとんど信じられなかった。そして、一時的な現象で、すぐに消えてしまうと思っていた。
 しかし、今回この本を読み、インターネットで調べてみて驚いた。科学は間違いなく進歩しているのだ。クローン人間が出来ようとしているのと同じように、クライオニクスはどんどん発展しているようだ。世界中に会員や、登録している人がすでに700人を裕に超え、保存されている遺体が、20は有りそうだ。正に散骨の逆である。
 そしてこの本は、日本にも「クライオニクス」の組織ができ、法的にも認められ、液体窒素に保存されている遺体もすでにあることが前提で始まっている。
 その「日本遺体冷凍保存推進財団」を舞台に前代未聞の殺人が繰り拡げられる。ミステリーに付き物のいろいろなトリック、主人公の刑事の捜査中の危機などそれなりに面白く、事件解決や、謎解きにおいてもそれほど失望感なく読める。元来私は、その手があまり好きではないのだ。こじつけのような謎解きや、読者に与えられてない情報が後から、実はこうだった的なことに興ざめしてしまうからだが。
 ミステリーとしての面白しさはともかく、興味深く読めたのは、やはりそこに貫かれているテーマ、「人間とは」「生きるとは」そして「愛するとは」ということを基本に、「不老不死」「永遠の命」それらを問題にして物語が進行していることだ。中でも、ちょうど真ん中あたりで語られる長谷川ヘイゾウなる巡査部長の言葉「人間、死ななければだめです」「自分をいつまでも生かそうとしたら、どうなりますかな。人の思いは?私などが不器用に想像するに、他のものを慈しむ気持ちなどなくなるのではないでしょうか」が印象に残る。
 読書の秋、秋の夜長、こんな「生」や「死」を考えながら、ミステリーの謎解きに参加するのもいいかも知れない。

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